#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20171117_401_10032p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


成り上がり

  朝顔

横町の角をひとつ曲がる
薄鼠色のビルの1Fに
赤い屋根の小さな雑貨を兼ねたシフォンケーキ屋がある
ついこの間まで
自分が作っていた小間物を
しっとりとしてきた手に取って
「ああこれは
障がいのある可哀想な人たちが作っているんだ」
とふと思い
私は愕然とした
店に来た
あの同級生も
あの近所のおばさんも
そんな思いでレジに立つ私を見つめていた
のに違いない

私は
背筋をしゃんと伸ばして
かつての仲間の作った薄紫色の七宝焼きのイヤリングを買う
「三百円です」
長財布から
悠々とした素振りで一万円札を出して
私はそれを買う
耳たぶを偽のアメジストで飾って
なけなしの詩を片手に引っさげて
私は
華やかな引きこもり達の集まる
高級ホテルの詩会に
堂々と足を踏み入れて
ゆく

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.