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作品 - 20171101_930_9991p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


生命力

  霜田明

めをさましたのは
めざましどけいがなったから

めざましどけいのなる音が
近くてさわがしかったから

食べたいものならある
食べられないものなんかない

それでもおなかがすいたから
寝ぼけていることをやめにする

  

君も目を覚ましただろう
目覚まし時計をかけて

君は自分のちからでは
目覚めることができない

濡れたままの時間を
忘れ去られていくために

君は壁掛け時計のように
待つことだけで生きながらえている

  

あんまり眠たかったから
眠ったことだけ覚えている

僕には身体があって
一人ではおどけられなかった

君は待っていることでだけ
愛することが言えるのだろう

待っている人に恋することは
遠く離れていくことだった

  

悲しい言葉しか知らないのかと
思ったよ君は話さないから

僕が話し始めると言葉は
世界の背中の水を打つように響いた

君は冷たかったし
僕も冷たかっただろう

励まし合うなんて嘘だって
僕らは分かっていたはずだから

  

優しい気持ちになっている日には
いつもより君を遠く感じた

眩しい夕焼けが一瞬だけ
時間を止めたのを僕は見た

裸にされてしまったあとの身体は
分からないものだけで出来ていた

どうしても君がわからないと思っている時間が
君を愛している時間だった

  

それでも僕らは
お互いの場所にいたはずなんだ

そうでなければ二人でいても
一人でいるのと同じだっただろう

終わることさえも
何も分からない電信柱が立っていた

夜の端を断つ裁縫ばさみの
照り返す光の生命力よ

  

僕はもう身体を持つことに
耐えられなくなってしまったのかな

遠くへ出かけていくことだけが取り残されている
君はずっとわかりやすいだろう

距離につれて景色は広がっていくのに
僕の世界は変わらない

部屋に帰ると昨日の僕は
贈り物ばかり集めている

文学極道

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