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作品 - 20171101_917_9987p

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陽の埋葬

  田中宏輔



日の暮れ方の川辺り、湯女(ゆな)の手の触るる神の背の傷痕、
  ──その瘡蓋は剥がれ、金箔となつて、水の中を過ぎてゆく……


(魚(いを)の潰れた眼が、光を取り戻す、光を取り戻す。)


日の暮れ方の川辺り、湯女(ゆな)の手の触るる神の背の傷痕、
  ──その傷口より滴る神の血、神の血は、砂金となつて、水の中を過ぎてゆく……


(……、刮(こそ)げた鱗(いろこ)や鰭々(ひれびれ)が、元に戻る、元に戻る。)


神の背を流るる黄金(わうごん)の川、湯女(ゆな)の手、湯女(ゆな)の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零れ……


それでも、わたしは、わたしの
  ──傷はいやすことのできないもので(ミカ書一・九、罫線加筆)
      わが目は絶えず涙を注ぎ出して、やむことなく(哀歌三・四九)
    わたしの目には涙の川が流れてゐます。(哀歌三・四八、歴史的仮名遣変換)


打ち網の網目、絡みつく水藻、、水草、、、川魚、、、、


──わたしの涙は、昼も夜も、わたしの食物であつた。(詩篇四二・三、罫線加筆及び歴史的仮名遣変換)


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浮子(アバ)


浮子(アバ)


湯女(ゆな)の手が解(ほぐ)す、繭屑で拵へたる嬰兒(みどりご)、
  ──竹箍(たけたが)締めの木の盥(たらひ)の中、解(ほど)けた繭屑が、魚(いを)となつて泳ぎ出す、泳ぎ出す。


さうして、わたしも
  ──わたしの肩骨が、肩から落ち(ヨブ記三一・二二)
      わたしの骨はことごとくはずれ(詩篇二二・一四)
    悲しみによつて溶け去ります。(詩篇一一九・二八、歴史的仮名遣変換)


──主は彼らの水を血に変らせて、その魚を殺された。(詩篇一0五・二九、罫線加筆)


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浮子(アバ)


浮子(アバ)


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雨が流れてゐる。


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雨が流れてゐる。


川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。


──古い雨だ。


栞(しをり)、胙(ひもろぎ)、箒(ははき)持ち、虫瘤、馬塞棒(ませぼう)、燐寸箱(マツチばこ)、……、


──みんな、古い雨だ。


湯女(ゆな)の手の触れし、神の背の傷痕、
  ──神の背、神の背を流るる黄金(わうごん)の川、


其は、地に墜つ、湯女(ゆな)の手、湯女(ゆな)の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零るる、黄金(わうごん)の川、


川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。


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浮子(アバ)


浮子(アバ)


網代(あじろ)、簀子(すのこ)、礫石(さざれいし)、


──古い雨だ。


──みんな、古い雨だ。


湯女(ゆな)の手の触れし、神の背の傷痕、
  ──神の背、神の背を流るる黄金(わうごん)の川、


其は、地に墜つ、湯女(ゆな)の手、湯女(ゆな)の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零るる、黄金(わうごん)の川、


川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。


川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。


先に訪ねて来たものも、後からやって来たものも、もう、ゐない、……


もう、ゐない、……


、……


石垣に濡れた雨、


だれもゐない橋上(けうじやう)、


雨も、雨に濡れてゐる。


雨も、雨に濡れてゐる。


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雨蛙(あまがへる)、


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雨蛙(あまがへる)、


輪禍(りんくわ)の轍(わだち)、


その骨の罅(ひび)に触れる処、

文学極道

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