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作品 - 20171027_844_9980p

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光に照らされて(太もも)

  中山中

夜の底で最終電車を待つ
きみの太ももが
プラットホームの蛍光灯に照らされ
卵の黄身みたいにひかえめな金色で
輝いている

光り輝く二本のふくらみが
やけに神々しくて
もはや太ももであるとは
思えないほどだけど
でもやっぱり神々しいのは
それが太ももだからなのだろう

きみを照らす蛍光灯には
虫たちが群がっている
すぐ近くのきみの耳にまで届かないほどの
小さな羽音を立てながら

ぼくがそのなかの一匹のハエなら
味気ない蛍光灯のもとは去って
輝くきみの太ももへと飛んでいきたい

その眩いなだらかな丘の上で
這いずり回ることができたなら

ぼくは全身で
そのふくらみ
そのあたたかみ
そのなめらかな皮膚の微細な感触を
知ることができるだろう

そしてもしそのとき
きみがぼくをはたいてくれたなら……

粉々になったぼくの体の断片が
きみのそのきらめく肉体の上にへばりつき
もろいぼくの命は尽きる

そこに訪れるのはささやかな歓喜であり
小さな祝福であるに違いない

だってそれは
ぼくという闇がきみという光に
照らされて消えてしまった
それだけのことなのだから

文学極道

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