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作品 - 20170708_792_9744p

  • [佳]   - 尾田和彦  (2017-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  尾田和彦




昨晩
ぼくの中にあったものが
反転した
ちょうど地球ひとつ分の距離で
サザンホテルの
前の道
歩道で見かけた君は
昔のまんまだった

黒髪の
ショートヘア
どこか古風な
昔の日本の女性を思わせるような
身のこなし

「お母さん来てらっしゃるんですか?」

金曜日
5時半の定時にあがる
事務の女の子が
話しかけてきた
「いや・・
夏休みに入ったら
来ると思うけど」

そういったら
彼女の眼の中に
顔の端々に
女の性がにじみ出していた
ぼくはそういうシグナルを
見逃さない

鹿児島県の
甲突町の寂れた裏通りに
ソープランドが軒を連ねる
受付で一万円を支払い
部屋で女の子に1万1千円を払う仕組みだ

詩織って
いった女の子は
ぼくから2万円を受け取ると
9千円のお釣りを
自分の財布から取り出してくれた

ピンクの100角タイル張りの薄暗い部屋
とても清潔とは言えない
「マットプレイする?」
サービスは
どうやら全国共通らしい

ところでぼくは今日
女と会うかどうか
思案している

「運命」というものは
きっとあると思う
それは信じる
という
人の中にある
とても不可思議な行為だ

信じる
ということが
運命につながっていく
良いものと
悪いものとの
境目を
包丁のようなもので
ザクロのように
ザックリと
切り裂きながら

ぼくの体の中から
色んなものが飛び出していく

というものは
それはとてもよくできた比喩で
あの甲突町の裏通りで
体を売っていた
詩織なのかもしれないし

例えばスーパーで売られている
鹿児島県産の養殖マグロ398円の
刺身かもしれないのだ

体を売る行為には
それなりの世間の仕組みというものが必要となってくる
スーパーのマグロと
ソープランドの詩織が僕の中で融合していく

血とは
例えばそのような比喩だ

「君を探そう」と
誰かの事を思いはじめる
恋の始まりは
歴史の出発点だ
おそらく言語の始まりも
求愛行為の
唐突な変化によって生まれたに違いない

人間ほど変化を好む動物はいない
「退屈」というものが
人間のもっとも恐れるべき「天敵」である
奇妙なことに
世間では仕事の過労の為に
命を絶つ行為に走るものがいる

悲劇とは
そうした人が作り出した
哀切にまみれた情景である

血が
浴槽の中にあふれ出す
これは一体誰の地(血/知)か?

ぼくか?
彼女か?
マグロか?
ペンギンか?

ペンギン?


そうだ
マジでペンギンだって
飛べない空の上を
見上げているじゃないか
あの冷たい南極の海辺で
まるでテラスでオープンカフェって
おもむきでさ
時代を宿すことは誰にでもできる容易い行為だが
1000年後の未来に
責任を負いたい人間がどのくらい存在するだろうか?

時代を宿すことは
とても容易いことだが

君の眼の中に映っている世界は
もう夏も近いというのに




梅雨の雨空しか

映っていないじゃないか

文学極道

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