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作品 - 20170602_524_9655p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


YUICHI SAITO

  朝顔

なぐり書きの線
力強いストローク
一つ覚えと言えばそうかも知れない
どらえもん



ももももも

繰り返し繰り返し書くうちに
それは円になり波になり噴水になり
藍色の叫び

ああ
この叫びはどこかで聞いた
四分の一世紀前
八街のスイカ畑の真ん中の隔離病棟で聞いた
最初はこわくてこわくてうずくまっていた   
十畳の部屋に十二人が布団を敷きつめて寝た
エガワサンは時々飴をくれた
ちゃーちゃんは時々頭からカップ焼きそばをぶっかけた
金さんは機嫌が悪いと髪をわしづかみにして
床を引っ張りまわした

それでもみんなみんな同じ釜の飯を食った仲間だった
セクハラをする施設員を
「Hな
ことされなかったかぁい」
と少し喋れるサトウさんは忠告した

言葉のない世界に八か月いて慣れた頃
突然解放された私は教会に行って
「聖書を読めば救われます」と聞いて
じゃあエガワサンはちゃーちゃんは金さんは
どうやって救われるのかと混乱した

あの頃は
光のない世界に戻されるのが怖くて
ただただ怖くてずうっと自分の部屋にいた
 
二十年経った後、北川口に
知的障害者のアトリエがあると知って
父親と訪ねて行った

工房集
あの時とおんなじ人たちがいた
挨拶ができない人にどしどしぶつかってくる人たちが
だけれどきれいなマフラーが壁の棚にあり
画集が幾つかテーブルに置いてあった
それはそれは明るい光に包まれて
職員の人は根気強く書や織を教えていて
カフェーは陽だまりの中に居心地よくあって

神よ
あなたが救わない人たちが   
ここでは救われています
NYでも高く評価された
青い噴水のような
まあるい母親のような
どらえももももも


          

*齋藤裕一。アールブリュットの画家として世界的に活躍する。          

文学極道

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