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作品 - 20170522_181_9630p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


五月に、潜水する         

  朝顔

冷蔵庫にはアイスクリームがいっぱい。風呂上がりの髪が濡れて重たい。あなたのメ
ッセンジャーはまだ黄色くONになっている。でも返事はせずブルーの綿フラノのシ
ーツに潜り込む。

昨今のコンドームの箱は、女子高校生のプレゼントするバレンタインディのチョコの
甘ったるい匂いがする。シリコーンのピンクの振動が私の中心に伝わる。ローターの
ヴァイブレーションは孤独の間隙を撃つ。

オナニーは蕩けかけたモッツアレラチーズのようだ。少し薄くなってきた私の陰毛が
微かにふるえる。男の声は浮き立っている。

昨夜、残り物の酢飯をドリアに仕立てたものに、妻がレンズ豆を入れた酸っぱい記憶
が、不倫中の男の中にふと蘇る。それは、俺の婚外恋愛は悪くないと考える大きな理
由のひとつ。倦怠期の夫婦にとって、飯がまずいのはSEXを拒否されるのと同じだ。

少し贅肉のついてきた私の臀部に、エメラルドグリーンのTバックと黒の網タイツが
喰いこむ。それが私の情人のお気に入り。同じく、黒いキャミソールを性交の時も脱
がないのは、腹部が忌わしいメタボリック・シンドロームに犯されてきたからだ。

ヘッドスパの指が蛇のように私の髪にからまりつく記憶がふと交錯する。PCで疲れ
た頭脳に膣に感応が走る。美容院は体のいい有閑マダムの明け暮れもない行きどころ
のない性欲の処理場である。

交合は奪われることだ。優しいペニスは嘘吐きだ。私は搾取されながら、ねばった粘
膜で貴男をインストールする。

ツイッターにもFBにもラインにも、人の孤独が溢れるように詰まっている。誰もが
わたしはここにいる、愛をくださいと叫んでいる。愛は、ほんとうは穿たれた真空の
ラムネの瓶なのに。

文学極道

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