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作品 - 20170504_454_9590p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


2017年5月4日GW抄

  尾田和彦


http://nonoyu.daa.jp/
少し眠っただろうか?
26歳のぼくは
真夏の新宿西早稲田の路上で
パニック発作を発症し
倒れていたのだ
狭い路地裏に体を押し込み
ぼくはこのまま
死んでいくのだと
目を閉じた
まるで生命を
閉じようとするかのように

42歳のぼくは
湯治場の温泉にいた
野乃湯温泉
目を閉じていた
露天風呂の外は
霧島の大自然が広がっている
生きているのか
死んでいるのか
感じている暇もないほど
深く
疲労していた

疲労は
世界を縮小させ
夢を見る力も失った
くたびれた中年
昨日
同僚と牟田町で飲んだ
アルコールがまだ少し残っている気がした
26歳のホステスの
吐息が
まだ耳元に残っている
あたし北郷の山生まれ
イノシシって
罠で獲るより
銃で殺した方が臭みがなくていいのよ
イノシシ
食べたことある?

タバコは吸わないの?
ううん吸わない
〇ンコなら咥えるよ
そういうこと言うなよ

まだ9時だもんね
そういう問題じゃなくてさ
淑女がそういうことを言うもんじゃない
失敗したな

歌手の
JUJUに似ている気がした
http://www.sonymusic.co.jp/artist/JUJU/
あるいは
それほど似ているってほどじゃないのかもしれない
他の客のテーブルのところへ行き
えんえんと下ネタを話題にしている彼女を見ていた
男たちはそれを聞いて
喜んでいるのだと
彼女は思っているのだろう

この日6件
クラブやキャバクラをはしごし
十数人くらいの女の子とお酒を飲み
お喋りしたが
どの子も饒舌だった
気に入られようとしているのか
仕事を全うしようとしているのか
傷を癒そうとしているのか
8割くらいがバツ付きの
シングルマザーだったような気がする
そして誰もが
不器用に生きているように見えた夜

その夜の街は
矛盾を抱え込んでいる
いや
人間を最後に救う
「希望」がそこには
あるのかもしれないナ
ぼくは良き洞察者ではない
単なる酔っ払いでもないさ
エゴを抱え込んだ
疲れたサラリーマンに過ぎない
だが彼女たちの良き話し相手になれただろうか?
一瞬でもそう思えたことに
良心の呵責に対する
慰めを感じているのだろうか
いや違うな

虚無に抵抗する
己の中の抗いを探しているのだ
単純に探している
探している
それが最も本質的な感覚だ

野乃湯温泉は霧島温泉郷の外れにある
丸尾交差点を折れ
山の中にむかっていくのだ
景色が段々良くなっていく
街にはない
風景が広がっていくのだ
つぶさに見れば
見慣れない動植物が見ることができるだろう
だが疲労を抱えた都会人が見るのは
そういったものじゃない

そういったものじゃない
見ることができるのは
力のあるものだけだ
己の内側と外側は
同じ質量でつながっている

わたし即世界
単純な理屈だ
わたしを「豊かに」すること以外に
方法はない
26歳の自我と
42歳の自我に隔たりはない

時間とは即いまの事だ
過去も未来もない空間の事を言うのだ
『思い出』というものほど残酷な概念はない
人間はそれに縛られ
そして苦悶する

そこから見えるものは死後のあなただ
野乃湯温泉の露天でぼくの背後から話しかけるものがいた
死んだあなたが100年分
あなたの中に存在している
過去は箱舟のようにあなたのエゴだけを乗せ
難破船のように漂うのだ

文学極道

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