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作品 - 20170408_922_9543p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


病みはじめた世界に癒すべき海がなく

  尾田和彦


http://toyokeizai.net/articles/-/166770

地中海に展開する
米海軍の2隻の駆逐艦から
59発のトマホークが
シリア政府軍基地へむけて発射された夜

世界の不幸が始まった
米国の狂気は今やむき出しになった
人間が滅びることは
悲しい出来事ではないが
一息で引き裂かれた正義には
ひと欠片の尊厳もなかった

ぼくらの都市が
何万
何十万年後かの
新しい生命たちによって
発見される日の為に
奏でたい唄がある

今やぼくらの思考形態や行動様式は
地中深くに発見される
骸化した古代人のそれだ
再び発見されることを待ち
ただ地中の奥深くに眠る
沈黙のそれだ

ある街に現れた商人が
こともあろうに
政治家になったわけさ
彼はテレビのリモコンをかえるみたいに
ミサイルのスイッチを押すことができた
忽ちのうちに暴力と憎悪が世界を覆った
亀裂は地球を真っ二つにし
宇宙を飲み込んだ

夜中に目が覚めると
ヘンドリックは冷蔵庫を開け
単板張りのフローリングをギシギシ軋ませ
サントリーの金麦RICH MALTのプルトップを起こす
グラスになみなみと注がれる黄金色の液体
何してるんだ!
こんな夜中にそんなもん飲むと
また肥るぞ!
せっかくダイエットが成功したばかりなのに…

バカ言え
今に世界もどうなっちまうかわかんない
ダイエットも糞もあるもんか!
俺は本能のままに生きるんだ!
ごくごくと
喉を鳴らしながらビールをあおるヘンドリック

昨日
米国がミサイルをぶっ放した
西部劇のガンマンよろしく「インディアン」にむけてさ
ロシアも黙っちゃいないだろう
プーチンだってとことん狂った男さ
中国のあの小太りの男はなんていうんだけ?
あいつが一番紳士にみえてくる
全くバカげた世界に居合わせたもんさ

しかし何時からヘンドリック
そんな政治に興味を持つようになったんだい
そういうと
すでに5本目にのプルトップに指をかけたヘンドリックが
ぼくを横目でにらみ

俺の姿を見ろよ
クマだ!
人間の世界で
クマの見た目で生きていく辛さが
お前にはわかんないのか!?
子供のころから差別を受けてきた俺が
政治に興味を持たないわけがないだろう

一瞬
それももっともな話だと思いかけたが
しかし
ヘンドリックはクマの姿でこの世界にやってきたのだろうか?
ぼくは彼の生い立ちについて
何も知らない事に気付いた
おい
ヘンドリック
ひとしきり管をまいた後
ヘンドリックはリビングのソファーで
グゥーグゥーと鼾をかき始めた



この島を昔は小鳥が訪ねて来たもんだ
もう飛んできそうな気配もない
千里の道をおれは証明にのためにやってきた…
国もない 水もない ・・・・・・・愛もない
               ―ウィスタン・ヒュー・オーデン―

世界の終わりについて
語るのが
わりと好きだった
子供頃から
終わりの話について
ロマンチックな気分を持っていた

人類の
最後の世紀に
ぼくは居合わせるつもりだった
というか
ぼくが死んだあとの世界を
信じることが
できずにいたんだ
言葉は人間の発明とされているが
言葉はまだ人間を発見していない

人が増えるたび
希望も一つ消えていく
一人の錯乱した男を
「神」と名付けた辺りから
歴史は怪しくなった
ゆえにデモクラシーもファシズムも同じ目的を有する
「悪」の排除
正義による支配
どちらも同じ人の好さげな顔で
ぼくらに近づいてくる

文学極道

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