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作品 - 20170306_915_9476p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩の日めくり 二〇一七年一月一日─三十一日

  田中宏輔



二〇一七年一月一日 「なんちゅうことやろ。」


きょうはコンビニで買ったものしか食べていない。


二〇一七年一月二日 「恩情」


なにが世界を支配しているのだろう。お金だろうか。愛だろうか。ぼくは恩情だと思いたい。恩情こそがお金も愛も越えた唯一のものだと思うから。


二〇一七年一月三日 「大地くん」


時代劇の夢を見た。地下組織のとばくを見た。むかし好きだった男の子が出てきた。びっくりの夢だった。彼はとばくしていたヤクザ者で、ぼくは役所の密偵だった。


二〇一七年一月四日 「痛〜い!」


足の爪が長かった。そのためけつまずいたときに、右足の第二指の爪さきがひどいことになった。足の爪はこまめに切らなくてはと、はじめて思った。


二〇一七年一月五日 「曜日」


月曜日のつぎは木曜日で、そのつぎが火曜日でしょ、で、そのつぎが土曜日で、そのつぎのつぎが水曜日、で、つぎに金曜日で、そのつぎに日曜日、日曜日、日曜日、日曜日……が、ずっとつづくってのは、どう?

あつかましいわ。


二〇一七年一月六日 「一人でさす傘は一つしかない。」


一人でさす傘は一つしかない。

たくさんのことを語るために
たくさん言う言い方がある。

たくさんのことを語るために
少なく言う言い方がある。

たくさんのことを語ってはいるが
言いたいことを少なく言ってしまっている言い方がある。

また少なく語りすぎて
たくさんのことを言い過ぎている言い方がある。

一人でさす傘は一つである。

しかし、たくさんの人間で、一つの傘をさす場合もあれば
ただ一人の人間が、たくさんの傘をさす場合もあるかもしれない。

ただ一人の人間が無数の傘をさしている。

無数の人間が、ただ一つの傘をさしている。

うん?

もしかしたら、それが詩なんだろうか。

きょう、恋人に会ったら
ぼくはとてもさびしそうな顔をしていたようです。

たくさんのひとが、たくさんの傘をさしている。

たくさんの人が、たくさんの傘をさしている。
同時にただ一つの傘をさしている。
それぞれの手に一つずつ。
ただ一つの傘である。
たくさんの傘がただ一つの傘になっている。
ただ一つの傘がたくさんの傘になっている。
たくさんの人が、たくさんの傘をさしている。
同時にただ一つの傘をさしている。


二〇一七年一月七日 「56歳」


ぼくは、しあさって56歳になります。ぜんぜんしっかりしてへんジジイだわい。


二〇一七年一月八日 「地球に落ちて来た男」


ウォルター・テヴィスの『地球に落ちて来た男』が1月11日に本として出るんや。


二〇一七年一月九日 「いつか使うかもしれない記憶のための3つのメモ」


自分のために2人の男の子が自殺したことを自慢する中年男
                    (1980年代の記憶)

建築現場に居残った若い作業員二人がいちゃついている光景
一人の青年が、もう一人の青年の股間をこぶしで強くおす
「つぶれるやろう」
「つぶれたら、おれが嫁にもろたるやんけ」
                    (1980年代の記憶)

庭の雑草を刈り取ってもらいたいと近所にすむ学生に頼む
「どういうつながりなの?」
「近所の居酒屋さんで知り合ったんだけど
 電話番号を聞いてたから、電話して頼んだら
 時給1000円で刈り取ってくれるって
 自分で鎌を買いに行ったけど
 自分で行ったところは2軒ともつぶれていて
 その子たちの方がよく知っていて
 鎌を買ってきてくれたよ
 いまの子のほうが、世間のこと、よく知ってるかもしれないね。」
「そんなことないと思うけど。」
                    (つい、このあいだの記憶)


二〇一七年一月十日 「誕生日」


これから近くのショッピングモール・イーオンに。きょうは、ぼくの誕生日だから、自分にプレゼントするのだ。

服4着と毛布を1枚買った。20000円ほど。服を買ったのって2年ぶりくらいかな。


二〇一七年一月十一日 「ヴァンダー・グラフ」


ヴァンダー・グラフを聴いているのだが、やはりずば抜けてすばらしい。


二〇一七年一月十二日 「過去の書き方」


まえ付き合ってた子のことを書く。
いっしょにすごしていた時間。
いっしょにいた場所。
いっしょにしていたこと。
楽しいことがいっぱい。
しばしば
誤解し合って
つらいこともいっぱい。
ふたりだけが世界だと思えるほど。
さいごに
もう一度、冒頭から目を通す。
すべてを現在形にして。


二〇一七年一月十三日 「現在の書き方」


いま付き合ってる子のことを書く。
いっしょにすごしている時間。
いっしょにいる場所。
いっしょにしていること。
楽しいことがいっぱい。
しばしば
誤解し合って
つらいこともいっぱい。
ふたりだけが世界だと思えるほど。
さいごに
もう一度、冒頭から目を通す。
すべてを過去形にして。


二〇一七年一月十四日 「誕生日プレゼント」


いま日知庵から帰った。えいちゃんと、きよしくんから服をプレゼントしてもらって、しあわせ。あした、さっそく着てみよう。


二〇一七年一月十五日 「ユキ」


まえに付き合ってた子にそっくりな子がFBフレンドにいるんだけど、ほんとそっくり。もう会えなくなっちゃったけどね。そんなこともあってもいいかな。人生って、おもしいろい。くっちゃくちゃ。ぐっちゃぐちゃ。


二〇一七年一月十六日 「マイ・スィート・ロード」


FBで、ジョージ・ハリスンの「マイ・スィート・ロード」に「いいね」をしたら、10000人以上のひとが「いいね」をしていた。あたりまえのことだと、ふと思ったけれど、10000人以上のひとが「いいね」をしたくなる曲だって、ことだもんね。ぼくがカラオケで歌う曲の一つでもある。名曲だ。


二〇一七年一月十七日 「夢から醒めて」


夢のなかの登場人物のあまりに意外な言動を見て、これって、無意識領域の自我がつくり出したんじゃなくて、言葉とか事物の印象とかいったものが無意識領域の自我とは別個に存在していて、それが登場人物に言動させているんじゃないかなって思えるような夢を、けさ見た。


二〇一七年一月十八日 「カルメン・マキ&OZ」


日知庵では、カルメン・マキ&OZの「私は風」「空へ」「閉ざされた街」を、えいちゃんのアイフォンで聴いていた。あした、昼間は、カルメン・マキ&OZをひさしびりに、CDのアルバムで聴こうと思った。カルメン・マキ&OZは、ぼくにとっては、永遠のロック・スターだ。すばらしすぐる。


二〇一七年一月十九日 「ぼくの詩の原点」


ぼくの詩の原点は、ビートルズ、ストーンズ、イエス、ピンク・フロイド、ジェネシス、アレア、アトール、ホーク・ウィンド、ラッシュ、グランドファンク、バッジー、ケイト・ブッシュ、トッド・ラングレン、バークレイ・ジェイムズ・ハーベスト、そして、カルメン・マキ&OZ、四人囃子だったと思う。

T・REXを忘れてた。

ヴァンダー・グラフを忘れてた。


二〇一七年一月二十日 「自分には書けない言葉」


日知庵から帰って、郵便受けを見たら、平井達也さんという方から『積雪前夜』という詩集を送っていただいていた。「ダイエット」「47と35」「51と48」「飽きない」「グミの両義性について」といった作品を読んで笑ってしまった。数についての粘着度の高さにだ。ぼく自身が数にこだわるからだ。

先日、友人の荒木時彦くんに送っていただいた『アライグマ、その他』というすばらしい詩集とともに、ぼくの目を見開かさせてくれたものだと思った。こんなふうに、見知らぬひとから詩集を送っていただくと、ありがたいなという気持ちとともに、知らずにいればよかったなという気持ちがときに交錯する。

すばらしいものは知る方がよいに決まっているのだけれど、ぼくに書くことのできない方向で、すばらしいものを書かれているのを知ると、ぼくの元気さが減少するのだ。これは、ぼくがいかに小さな人間かを表している指標の一つだとも思えるのだけれど。まあ、ひじょうに矮小な人間であることは確かだが。

四人囃子の「おまつり」を聴きながら、平井達也さんからいただいた詩集を読んでいる。詩集の言葉がリズミカルなものだからか、ビンビン伝わる。ぼくは、自分のルーズリーフを開いて、自分のいる場所を確かめる。読まなければよかったなと思う詩句がいっぱい。自分には書けない言葉がいっぱいだからだ。


二〇一七年一月二十一日 「『恐怖の愉しみ』上巻」


ようやく、アンソロジー『恐怖の愉しみ』上巻を読み終わった。きょうから、これまたアンソロジーの『居心地の悪い部屋』を読もうと思う。


二〇一七年一月二十二日 「UFOも」


UFOも万歩計をつけて数十万歩も一挙に走っている。UFOもダイエット中なのだ。


二〇一七年一月二十三日 「稲垣足穂は」


稲垣足穂はUFOより速く一瞬で数万光年を駆け抜けていく。


二〇一七年一月二十四日 「七月のひと房」


帰ってきたら、井坂洋子さんから『七月のひと房』というタイトルの詩集を送っていただいてた。10年以上にわたって書かれたものを収めてらっしゃるようだ。タイトルポエムをさいしょに読んだ。つづけて、冒頭から読んでいる。言葉がほんとにコンパクト。良い意味で抒情詩のお手本みたいな感じがする。


二〇一七年一月二十五日 「あらっ。」


きょう、仕事帰りに、自分の住所の郵便番号が思い出せなくて、帰ってきて郵便物を見て、ああ、そうだったと確認して、なんか自分が痴呆症になりつつあるんかなと思った。住所はすらすらと思い出せたのだけれど。さいきん寝てばっかりだったからかな。もっと本を読んで、もっと勉強しなきゃいけないね。


二〇一七年一月二十六日 「『居心地の悪い部屋』」


アンソロジー『居心地の悪い部屋』半分くらい読んだ。いくつかの短篇は改行詩に近かったし、散文詩のようなものもあった。気持ちの悪い作品も多いが、読まされる。日本では、詩人が書いていそうな気がする。たとえば、草野理恵子さんとか。さて、つづきを読みながら布団に入ろうか。


二〇一七年一月二十七日 「ジミーちゃん。」


きのう、えいちゃんと話をしてて、ぼくの友だちのジミーちゃんが、ぼくから去っていったことが大きいねと言われて、ほんとにねと答えた。20年近い付き合いだったと思うのだけれど、ぼくの作品にもよく出てきてくれて、ぼくに大いに影響を与えてくれたのだけれど。もう、そういう友人がいなくなった。


二〇一七年一月二十八日 「ソープの香り。」


いま日知庵から帰った。えいちゃん経由で、佐竹さんから外国製のソープをプレゼントしていただいた。めっちゃ、うれしい。とってもよい香り。きょうは、このよい香りに包まれて、眠ろう。


二〇一七年一月二十九日 「レイ・ヴクサヴィッチ」


アンソロジー『居心地の悪い部屋』を読み終わった。よかった。ひとり、気になる作家がいて、彼の短篇集を買おうかどうか迷っている。レイ・ヴクサヴィッチというひと。奇想のひとみたい。読んだ「ささやき」が不気味でよかった。ホラー系の作品なのに、理詰めなのが、ぼくには読みやすかったのかな。


二〇一七年一月三十日 「Tyger Tyger, burning bright,」


いま日知庵から帰った。きょう、はじめて会ったんだけど、ブレイクの『虎』を知っている大学院生の男の子がいた。理系の子で、ぼくが詩を書いてるって言うと、とつぜん、「Tyger Tyger, burning bright,」ってくちずさんじゃうから、びっくりした。海外詩(読者)は滅んだと思っていたからだけど、滅んではいなかったのだった。


二〇一七年一月三十一日 「ゼンデギ」


きのうから、いまさらながら、イーガンの『ゼンデギ』を読んでいる。頭の悪いぼくにでもわかるように書いてある。きょうも、佐竹さんからいただいたソープの香りに包まれながら、『ゼンデギ』を読んで眠ろう。

文学極道

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