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作品 - 20170218_311_9445p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


鉛の部屋部屋を抜けてゆく彫塑と彫刻家の影像にまつわる七つの噂に附いて

  鷹枕可

_I,黒い白樺の森へ


立ち枯れた 樹々の間を 死者たちの聯祷が 滅びてゆく
白い花々は 厳冬に 凍りついては 夜の縁に遊ぶ 蜉蝣たちは 死の翼に抱かれた おまえを連れ去る
なにゆえに おまえは 悲しい顔を 私に向けるのか 十字架のもとに築かれた 石の花々よ 
炎は竈にとどまり 青い眼は 寝台に蟠る かけがえのない 私だけの 書物
虚飾の教会が また一人 去り行くもののうえに 標を捺す 今は滅びた 死の首府にも
咽喉は 旧い葬歌は 嗄れたまま 立ち竦み 瞋っている 樹々を吹き抜けてゆく 死の嵐の様に

静かに見送られた 柩の上に 静かに 時刻を錆び果てた 釘が降る まるで永遠のように
樹々の約束のまえに 羽搏く 幾つもの橄欖と 幾多の鳩が 
洪水を 四十日を逃れた 一週間を弛緩した 花籠を 蠅は飛び交い 頑なな死を 懼れている 迎えられながら
傷んだ包帯を 巻きつづける 手指は 失われた城砦を 死の夢を見ては 履みとどまる 
喪われた人々の 沸き立つ声を 生きた光芒へと 差し展ばしながら


_III,光冠


光冠を戴く鶉の聖母が
血の濁流を
肉塊を抱擁する時
蘭を鬩ぐ死者達の怨嗟が私達の糧となる
無窮の丘陵の聯なりからは
埋葬された炎の鏑が透かし見える
侵食された港湾
食餌の写らない現像室
それらが咽喉を迫り上がる様に
溺死の羽蟻は
石鹸液に
緻密な吐瀉物の白紙謄本に痙攣していた

若し自由というものが在るとすれば
それは血の通わぬきみたちの鑑の亡き骸である

錆鉄の鍬は
鉛の季節へと枯れゆき
放射線写真に被曝の檸檬花を晒した
美しい継母の様に
逞しい父親の椅子の様に
決して彼等は
毒の蜘蛛を
毒の紡績車を
建築体を見向きもしない
それは風景の絵葉書を燃やす焼却炉に
縺れた嬰児の腸臓を
青い包装紙の遺骸の様に
救済を踏みながらそびえる
花崗岩の記念碑に
縊られた鉄錆の死の実像は
その柵に荊のダンテルが脆く硬く印象を鎖すように、


_III,死者と不死者への花束


ごらん、あんなにも馨しく春の花々が揺れている!
落ち窪んだ溪谷のあてもなく掠れた呪詛のただなかで――。

その金髪は麗しくまるで少年期の颯爽たる秋風の様に、
威嚇を怖れ慟哭の様に諸手を震えている花々を績みながら――。

あなたの歌声は歓喜にうち震えている!夢を観る修道尼の耳にも、
こわばりつつ萎れ朽ちるまでを唾棄されつづけた鏡の石像の様に――。

春の肖像を綻ぶ帆船はだれをどこへ運んでゆくのだろうか、
肉体像を糧を奪われ、苦しみながらひとつぶの干潟に餓え乾されては――。

透き通ってゆく運河の辺縁、夜の窓を開けばそこは――
そこは血の償いに飢えた天使群像に抱かれた幾多の死者達がやがては到るところ――、

    /

荘厳の虚飾を威厳としながら
淡湖の底に教会建築は綻び 弔鐘の聴こえうるかぎりを聳つ 鍾乳筍 復は慈善納骨室より、視えざる現象体の後衛へ

文学極道

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