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作品 - 20170211_084_9439p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


語る死す、語る生まれる

  kaz.

2011/11/14 23:47
夜道、ひっそりと息吹く新芽のことを思いやる。手のしわから生え出た薄緑の突起が、寒さで枯れてしまわないよう温もってやる。ポケットに突っ込んだ手の握りは優しい。握った手の隙間から漂う新芽の甘い香り……殴られたときの痛みを知らない人たちのように、という例えを使う。そうすれば世界が血の気に満ちているのが分かるだろう。ただ一つ、安息があるとすれば、握り締めた拳の中の汗くささだけだ。

(……沈黙。「香りは、闇のなかで最も多くのことを語りたがる。どうやって語るのかを、最も知らずに。」という一節を挿入する。その隣に、月の出る晩の澄み切った空気ほどに張り詰めた気迫を描こうとして、放射状の線分を描く。)

「さらに続けて、太陽の輪郭を描こうとするが」
「皿に続けて、血の滴る獲物を載せようとするが」
「さら、さら、さらり、」
「懐を掠めた」
「封筒から手紙が落ちた」
「中身がこぼれ落ちた」
「ぱさり」
『ぼくは、語ろう』
『ぼくは、で語ろう』
『ぼくは、という代名詞を添えて』
「ぼそり」
「ひどくやせ細った」
「と連想した」
「という連続」


K先生「これは失礼、自意識過剰に見えたかね。生憎、代名詞では言及しえないものを、君たちはもっているのだが。むしろ、代名詞という存在そのものが、言及しえないものを指示するために存在しているのだと、君たちは」

レタス「はーい、キャベツみたいに、シャキシャキ動いて!」

爆弾犯「みんな、徒党を組んで、人生設計をエンジョイしよう。計画は実行しないことに楽しみがあるのだから」

K先生「……と、このように、口にされた途端、本来言及していたはずのものを失って、本来指していたものとは全く違う意味を抱えてしまうかもしれない。だから……」

(世界の憂鬱を語り尽くしてしまったのだという崇高さが降り立ち、獣の嗅覚で月夜をかぎ分ける。ハイエナの孤独。)

今日はここまでにしよう、と君たちは言う。ぼくは壁掛け時計を回転させて(そこには文字盤がなかった)、もう少し今日の時間が増えないかどうか試してみる。それからは、いつも決まった時間に眠る男が、定刻前に時計が止まってしまって眠れないときにどうすればいいか、延々と議論するように言われる。ぼくは、時計から数字を引きはがすコツについてくだくだと説明する。チャイムが鳴る。帰宅の号令が終わり、いっせいに君たちは走り出す。窓の向こうには夕陽が照り映えている。グラウンドを走る生徒たちはみな夕陽に向かっていく。

(「君たちは一つの誠実さに向かっているのだよ」。夕陽だけが、時間に嘘を付かない。教室中に太陽の香りが充満している、飢えたハイエナだけだ、光から誠実さを感じられるのは。)


2011/11/15 22:39
「方陣は裂け、語が流産する」
「生まれたのか、そいつは」
「死んだのか」
「いいや、食われたのさ」
「聞いていたのか」
「いいや、開いていたのさ、口が」
「奴の最期の一言はこうだ。」
『ぼくは、何かを伝えたい』
『ただ語りたいだけ』
『ぼくは、何を伝えるべきか知らない』
『語るべきことがないと語りたい』
『ぼくは、何を伝えるべきか知らないということを伝えたい』
『語るべきことがないと語ることもない』
『何を伝えるべきか知らないということを伝えたいと伝えるべきかどうかを知らないということを……ぼくは、語りたいと語ることもないと語るべきということを……』
「知ることと語ることが交雑している」
「あてもない混雑」
「あられもない交接」
「醜態」
「糞、糞、糞、どいつもこいつも、俺の言いたいことをみんな言ってやがる」
「俺の言いたいことをみんな言ってやがるということを言ってみやがれ!」
「糞が更に増える」
「呪文で」
「蘇生しちまえ!」
「あんちゃん、奴はソーセージから、自分の身体を作るのさ」
「腸詰がねじれて蝶に」
「蝶がねじれてつがいに」
「蝶つがいがねじれて」
「扉が開く」
「扉は背中に」
「花開く」
「花びらがあそこのビラビラに」
「紙吹雪」
「くす玉」
「くすくす、笑い声が」
「魂が繁茂して、裸に降り注ぐ」


映画が始まる。皿、皿、皿、と並べられる。続けて添えられる、サラダ、サラダ、サラダ。格闘家が手刀でかち割り、破片ごと喉に流し込む。格闘家の首は皿の破片で膨れ上がり、血を飛ばしながら炸裂する。「桜だ。桜」君は言う。飛び散った皿に血糊がついて、レタスとアボカドの混ざった濃い緑で、君は死体の首に接吻しながら、「私のほうが、ずっと美しく啜れる」。いつの間にやら花開く、君は。

(……見れば、いつの間にやら「桜だ。桜」という一文を挿入している。ぼくが呼びたかっただけだ。冷たくなっていただけだ。あの惨禍を、華と、花と、鼻と、……味わいたかった。そしてハイエナは肉を漁る。)

『ぼくは、語れるが、綴れない』
『ぼくは、騙れるが、揺すれない』
『ぼくは、嗄れる、啜れないせいで』
「口の隣で、夏が閉じる。いいや、口が閉じれば、夏が隣。口の隣で、頬は赤らみ、重く垂れる」
「秋が待っているよ」
「空きができたよ」
「ほうら開いた。口が開けば、飽きが来る」
「紅葉し、枯れ落ちる頬」
「熟れ切った果実」
「その果実に描かれた、顔」

(……ぼくは続けて、「鼻の中に、家。答えは?」と書き込もうとするが、露骨すぎてやめる。彼らは繊細なのだ。いつだって、死体と友達でいたいから。)

「桜が、『く』の一文字をかかえ」
「桜が、『くの一』文字をかかえ」
「鼻の中に、家をかかえ」
「とっかえとっかえして」
「ハイエナが逃げ出す」
「逃げ出すことからも逃げ出す」
「おかげで、ぼくはいつも……」
「秋の隣にいる」
「夏の隣に」
「いいや、秋の傍にいる」
「孤独と飢えの季節に口付けされる」
「じゃあ、キスをしたのは?」
「冬」
「春」
「秋」
「くの一」
「さくら」
「それとも、かおり?」

「ハイエナが、答えを漁っていく」
「明後日いく」
「と言い残した日に」
「彼女はいなくなり」
「いなくなり、と書き残した日に」
「戻ってくる」
「きっと、キスするんでしょう」
「好きなんでしょう」
「でも明後日にしよう」
「今日はここまで」


(友達といえば、ぼくの知り合いはいつも裸だった。見ていて恥ずかしい顔をしていた。少しも隠そうとしない裸の顔。言ってごらん。「踵を返し、踏み込んだところから腰を返して蹴れ」って。ほうら、地面に奴の鼻の跡が残ったろう……。)

「あそこに芽があった」
「目が合ったときには」
「まぶたが閉じていた」
「開いたときには」
「芽はなくなっていた」
「手のひらの中に」
「あったはずのものは」
「掻き消されていた」
「光のようだ」
「あることがわからない」
「手をかざしてみれば」
「真っ赤に流れるぼくらの血潮」


地面には足跡が続き、そこから草が生え、生えては枯れていく。枯れていくのを見送るあいだに、どれほどの時が経ったろう。時が経ったことを感じようとすれば、かえって感じることができないものだ。夜、夢を見ようとするが、見ようとすることでかえって見ることができない。という夢を見たような気がする。夢を見たのかどうかさえ、ぼくには分からない。分からないということが夢の中身であるような気さえしてくる。

「眠りたくなる」
「眠りたくなくなる」
「眠りたくなくなくなる」
「眠りたくなくなくなくなく……なる」
「眠りたくなくなくなくなくなく……泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く……ことなくほどなくわたしとおしていた糸をこちら側に引っ張ってくると、歩いていた足が攣って、ルアーになっていた耳が引き千切れそうになる。そう、お前は百足だ。電子の群れにムニエルを食わせて、三半規管の様子をずっと中継していふ。if.素早い走りを始めた指先がノーパソを〓き毟る。かどうか。竈馬。ハルヒ。長門との対峙。エスパー襲撃。oui, oui、お疲れ様。ミレニアム群れになるオムレツカツレツ交渉決裂高所から僕は僕はボカロいだ。Yes, yes, Joyce. のノートを引き裂いて足元に置くのだ。僕らは、わたしらは、そこから掻き出すだろう。さあ!→

(どっちでもいい。どっちだっていい。いいわけない。いいわけないわけない。もう、どうだっていい。ぼくは、そこで筆を折る。「そのときの怪我で、彼はピアニストとしての資格を失う」という一文が挿入されて、主題は変わってしまう。本当に折ったのか、あるいはただ書くのを辞めたのか、もう区別できない)


2017/1/24 18:57
なーんてな。
無の創造だ。
激しい雨が降り出す。
上下線を香水で塞ぐ雨だ。
息が詰まりそうだ。
言葉通りに。


2017/1/24 18:58
「病んでる村上」なんて歌詞をどうしてブッダブランドは挿入したのだろう。鍵盤検便叩けば潰れるのは痔なんです。だから長男威張ってるんです。走り書きした。新幹線の中を。手袋をはめたまま、わたしは書いている、描いている、海底を、改定を、かいていいんですか? かいていいんですよ。そうして僕は腹の底を掻き出して、ハイエナを羊水の丘から引っ張り出した。だからここからは未来の言葉になるだろう。


2018/1/22
今日僕は25歳になった。昔は聴こえなかったミリカノールの電荷音が聴こえる。ω。死んでみたまへ、屍蝋の光る指先から、お前の靈がよろよろとして昇發する。その時お前は、ほんたうにおめがの青白い瞳を見ることができる。それがお前の、ほんたうの人格であつた。というのが。ω。の瞳からの引用だ。作、萩原朔太郎。否。サクサクパンダ。
窓の向こうには彗星が見える。君の名は。


2118/1/22
今日『紙の名は。』を見た。紙には、名前がない。鉛しかない時代の物語で、鉛を削って訛りを記録するのに紙を使っていたはずが、紙に名前がないということが理由でできなくなっている。窓の外には合衆国国旗が舞える。いや? よく見ると日の丸と融合して、世界国家になっている。今日も彗星が降ってくる。あの彗星の分裂が紙の名前を奪い取り、紙の民の一員であったサルバドール・ダリを打ち倒し、『パン屋再襲撃』が道行く本屋の文庫本として出され、電子書籍はもっぱら人工栽培された人工知能の生命体であるキュリアス・ライバーが担っている。「そんなことを書いている新幹線は雪のために遅れて、空飛ぶバイクの市場占有率がもっぱら支配的だ。トランプタワーはビル管理人が失踪して以来誰も入らなくなり、『わけがわからない ってことですよ』と言っていた友人が托鉢のために出入りするようになった。韓国人の恋人と結婚したアリスは大丈夫だろうか。飛ぶ」

っっっっっ
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      っ○ ←新しい生命の誕生の図
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っっっっっ

僕はアリスの腹に出た性液を紙で拭い取り、ゴミ箱に捨てた。それが最後の紙の民の末裔だった。しかし漏れ出たうちの一匹が鏡の国に逃げ込み、ハイエナとなってアリスの腹から産まれる。
ハイ、エナ
杯、衣奈
はい、エナ
肺、胞衣
灰、絵凪
吹き飛ばさなきゃ、吹き飛ばさないで、皿を、さらに攫う風。
キュリアス・ライバーは我々のDNAを修復して老化も防いでくれる。しかも地面から個体を構成するのに必要な金属類を自ずと吸収する人工知能生命体だ。
今日、僕は125歳の誕生日を迎える。

文学極道

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