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作品 - 20170131_639_9421p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩へのリハビリテーション#01

  中田満帆

かつての愛のために


 去る年の一月
 吉原幸子を知った
 葺合警察の
 留置場にて
 かつての愛のために拒絶されて
 たったひとりで歳を迎えた
 かの女はこう書いてた

  傷つくことでしか確かめられないひとと
  傷つけることでしか確かめられないひとと──「鞭」

 いっぽうでアイリーン・ウェイドは、
 「いちばん悲しいのは
  若いうちに命脈が絶たれることでなく、
  醜く年老いてしまうことです」と書き残して自裁し、
 ポール・マーストンは、
 「なにもかもが演技だ、からっぽなんだ」といった
 ぼくがだれかを愛するのは傷つくため
 拒まれ、
 黙殺されることでしか、
 愛を確かめ、
 からっぽを埋めることができない
 ありふれたものがなにも手にできず、
 ぼくはぼくに執行猶予を科す
 それもみな
 かつての愛のためにってやつ 


カツカワさんからの葉書


 ぼくはカツカワさんの「ガラスの少女」や「猫の国」が好きだ
 ぼくは「まぼろしまぼちゃん」でかれを知った
 1992年
 まだ八歳で
 みずいろのはなみずと
 くさいろの冒険譚
 放課後はしょっちゅう近所の小惑星を旅して
 なんどもお母ちゃんを泣かせたっけ
 カツカワさんは
 ぼくの詩を「破壊や怒りを感じます」といった
 けれどあの詩はぼく自身のガラスの少女にむけたものだ
 ぼくが幻想分離装置を組み立てながら
 あの子のことをおもうとき
 鍵をかけたはずの抽斗からゆっくりと
 ミミ子さんや
 第七惑星清掃係が
 顔をだす

文学極道

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