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作品 - 20160907_409_9087p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


私が生きている、従って私が死に、嬰児は且て喃語を秩序とした

  鷹枕可

_I,自死を未遂する青年期の反復記述


誰にでも届くことばを書こう
誰のものでもないミモザに
燦爛たる扇越しに
囁き交すピウス14世の母、
記念碑は倒されるが倒される毎に より壮麗に縁取られてゆくのだ赤いリボンテープの十字に拠って
玩具の兵隊が暖炉の畔より死の行進をはじめた
爆ぜる薪は心臓を愚かに註解し、未踏のバレリーナは天井を這う
乱雑な痴夢の断末魔のなかで
より美しい或青年は四肢姿態が月桂樹に酷似していた咎で冷淡なアポロンの凱旋車に誘拐されてしまった
彫刻家ベルニーニ氏の霊感と気息が
退屈な退屈な退屈な弥撒弥撒弥撒曲群の自罰を罷免されるがために

揺るぎない血と木漏れ日の闘争の季節の中で
私は人知れず人を知り
人は最后の檸檬の肉としての苦渋を噛締めるのか
轟き已まない遮断機の眠りを否み
従属と蹂躙の中で襤褸布となりはてた反抗の季節よ
際限なき呵責にひしがれた矯正のための声よ
青春期とは云う迄もなく擦過された咽喉である
従って存在しない血塊を受け蝙蝠傘が散開をする不誠実な私を残して残して
ほどよい飽食で満たされた困窮よ
印刷機に輪転するレミング共への侮蔑よ
侮蔑が侮蔑をよび思想は自ら根幹を断つだろう

憎悪に燦然と充ちた紙幣の慈善より美しいものはない
施しと誓約で刷られたヒステリーを起す群衆の幽霊よ
静寂の為にこそ声はあり
騒乱の為にこそ死は掲揚をされるのだ



_II,変哲の髄


螺旋礎の硬き未遂碑撃つ侭に
滑稽の餐室
慈善の魔笛
霧鐘塔の海嘯
検体身躯を晦冥に捕縛するも
知悉よ鳴け
悲歎臼時計の海底建築物を
修飾且つ簡素たる
無棘薔薇莟緩み綻びあり
婀娜たる死の無き死を迷妄するが如く

大腿を縫綴じ指を呪いある
時間の警喩
燦然蝶の玻璃戸に
黒蜘蛛は
夥多たる人物群群像の容貌を踏襲しつつ
尚懐胎と想像に
無原罪の磔刑
弛緩液化せる
偶像叡智の血塊たる多翼象徴体を
粛粛と火葬室に処したり

舌禍饒舌記念碑を崇敬をもせず
放埓たれ  
鹹湖を逡巡せる遅行帆船よ
悪辣と整然に
泥濘人物起源の庭園は
落胤を追随し已まずとも
絶望へ渇望へ
威嚇の領野は魘夢がごとくにも終端勿く
円環劇場を叫喚せる
視線私製の零落を現象体の欺瞞に晒しぬ

概念機関と社会的隷属が均しく有りつつ
非確実なる存在を咎め
公営納骨所の贖罪
咽喉を焼く骨壺そして
人工の既製としての希臘彫刻
外燈を打建てよ
邁進す躍進す
破壊者が展望を巻く逆円錐
地下階を
苦役たらしめたる
死者の嘱望よ



_III,精神を反抗する精神


新しい薔薇のための衣類を
偏綺な死の森の磔杭のために委ねよう
花々で造された肝臓の荒野を越えて
黎明は今や瓦斯に張りつき
黄昏は麦の椅子に純粋な血族を銃座のように並べ列ねるだろう
修道院は盲いた広報紙のなかで叫ぶだろう
科学 科学 科学

吃音の矯正器のためのもろもろの硬殻よ
胡桃には永続への街宣車が咽喉の飾り釦のように轍を逸れてゆく
そして歯科医の検死室を朗らかなラヴェルの晩年が通り過ぎていった
縛鎖に縺れ絡まる机上よ
絶後の死を恍惚と語る敬虔な数学よ
総ては均整と整列された概念の愉悦であるならば
絶対的な破壊
頑迷な人工調和、
その血液採取のための安天鵞絨の窒息は猿轡より滑落した拇指の穹窿ではないと
だれが断絶し得るのか
青い試験紙のテープに録音をされた偶然の秤量は
シャンソンの腐敗と同じく
零落してゆく遊戯用木馬を公開議会の鈍鉄製の梯子より取除くだろう

安寧の機嫌を甚だしく損ねつつ綿菓子の紡錘機より雲の腕を攫むことは可能だろうか
若し峻厳な枢機卿の肖像に二十日鼠を放つならば
熱気球は墜落と上昇に均しく引き裂かれ
凡庸な刺繍製の
呆けた松葉杖と何ら変わらなくなるであろう
殴り付けられた懐中に鹹湖が渺渺と毒の棘を排気し
乾燥する凝膠を擦過してゆく現代的人間精神とは
既に腐朽した前近代的機械製造工場に於いて試みられた愚昧な想像に縁る錬金術の復興でしかないであろう

見よ、全ては既視的な現象に没落していたが
全てが苦難の前に倒された訳ではない
見よ、新しい薔薇のために
刷新された不調和と左右非対称の人工庭園を誇るべき破壊運動が巻き起こってゆくのを

文学極道

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