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作品 - 20160905_334_9075p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


すべてのものに終わりがある、サーカスであろうと夏であろうと

  ユーカリ

 ねえ
ギターのFコードの抑え方知ってるかな
人差し指で全部の弦を抑えないといけないやつ
わたし手がすごくちっこいから
すっごく難しくてさ
すっごく苦労したんだよね、
なんて関係ない話は置いといてさ
たとえば
ギターのFを抑えて
そのまま1フレットずつ
音を高くしていくの
決められたコード進行じゃない
別にマイナーでも
セブンスでもサスフォーでもなんでもいい
そうやって1フレットずつ音を高くしていく
そうやってでたらめに
時に不安げな音の響きも混じって
でもなんとなく前向きな感じで
音を昇り続けたら
空から垂れ下がったほころびの
猫のしっぽのような感触が
頬に触れるような




サイト名:ある日常の。
エントリー名:編み物のほころび
日付:2009.8.29


編む、という言葉は適切ではないのかもしれないね
歴史学者をこじらせてしまったおかけで
サマーセーターのほころびに留まる視線は
よろよろと浮浪者めいた足どりを辿り
あらゆる忘却の境界線をなぞりながら
滑り落ち
床に転がるのだろう
もはや視線とも呼べない
宛先不明の
ちょうど瓶に詰められた
手紙のもつ
哀しみに似ている
編む、というよりもむしろ、ほどくような
そんなこと言っていたらせっかくのカレーが冷めてしまうのに
でもそれも違うような…わからない
問題はせっかくとろとろになるまで煮込んだ
歴史の天使の話、前にもしたかもしれないけど
にんじんを台無しにするような
ベンヤミンという哲学者が「歴史の概念について」という遺稿に記した
あなたのそうやってすぐ考え込んで周りのことまでわからなくなる
あの天使のことをいつも考えてしまう
悪いくせなんだけど、もう諦めた
天使が過去を見ていて
手つかずのお皿にラップをかけたら、まだ冷め切っていなかった
天使は過去を見ているというよりも、過去に敗れ去ったものたちの
白く曇ったお皿をふたつとも冷蔵庫に入れてしまうと
破局、とベンヤミンが表現する
椅子に座り、彼のこと見ているふりをして
瓦礫のように崩れ去ったありさまに目を見開かされている
私は壁に掛けられたサマーセーターを見ていた
天使は進歩という嵐にいまにも吹き飛ばされそうになっている
セーターは最初はもっと爽やかな色だった
僕は今まで国家や権力が綺麗に編んできた歴史が
初めて会った時これを着ていたことなんてもう覚えていないだろうから
ほころんでいるところから全てを始めたいと思っているだけなんだよ
ほころんでも色褪せても捨てられなかったことの無意味さに少し奥歯が痛んだ




サイト名:2ちゃんねる
スレッド名:【☆祝☆】今日から忍術修行始めます【水走り習得】
レス番号:357
日付:2013.9.1


救済ですね
聖書を鞄にしまいながら、女は言った。女はちょうど聖書を仕舞い終えると、祈るかのように両手をテーブルの上で組み、僕を見つめた。僕はその瞬間の出来事をとても上手に思い出すことができる。例えば彼女の頼んだメロンソーダはまるで和式便所みたいな奇妙な形をした容器の中でぶくぶくと泡をたてていたし、僕のアイスコーヒーはその時入れられたガムシロが火砕流のように緩やかに、けれどもアイスコーヒー本人からしてみたら緊急なのかもしれないけど、黒い液体を侵食していく最中だった。窓の外ではスカートを履いた女が通り過ぎていくところだった。或いはスカートから伸びた生白い太腿が通り過ぎただけなのかもしれない。とにかくその薄青いスカートから伸びる生白い太腿の肌理はそれぞれとても丁寧に収まっていて、理科の教科書の細胞の章の最初ページに載っている写真みたいに適切だった。一部分その一つ一つ肌理が崩れているわけではないのだが、およそ120から130あたりの肌理がそれぞれほんのり赤く染まっていて、或いはその脚がさっきまでどこかのベンチに押し付けられていたことが想像できた。ほんのり赤くなった地帯は喫茶店の窓枠を通り過ぎる間にだいたい90くらいまでの肌理に収まっていき、もう少し経てば綺麗に痕も残らないだろう、とそう思った。ただその脚が窓枠から消える瞬間、その肌理の適切な収まりの所々から覗く毛穴が無数の目のような在り方で僕を見ていた。千円札を財布から取り出しテーブルに置き、すみません、とだけ言い残してその脚の行方を追おうとした。救済は、という女の探るような細い声が後ろの方から聞こえてきたのを覚えているが、僕は振り返らずに脚を追って外に出ると、そこには多くの人たちがいて、多くのスカートから伸びた生白い脚があって、さっき僕をまじまじと見つめた太腿を見つけることは叶わなかった。その場で失望の縁に腰掛けるように蹲ると、背後でカラランと音がなり、救済が追いついたことを知った。僕は救済を見つめると、その首元の肌理は所々で適切ではなくなってしまっており、大部分で黒ずんでいたし、いま切った木の切断面みたいにカサカサとしていた。肌理の乾いた大きな黒目は全体として僕を見ていたともいえるが、それは背景の一つとして、まるで肌理の一つ一つを見つめることなく脚そのものを見ているみたいに、阿呆のやり方で眺めていた。ただ補ってあげたいという思いのままに、救済の首元に手を伸ばした。僕の掌の肌理の所々から余分な皮脂が分泌されていたし、救済には明らかに水分が足りなかったから、僕はただ補ってあげたい、という思いだけだった。女はきつく睨みつけたまま、その視線を動かそうとはしなかった。救済は徐々に強く腹あたりを蹴りつけ、僕は鳩尾にはいった一撃に呼吸がうまくできなくなり、地面に崩れ落ち、意識が剥がれていくさなかに、誰かに、何かに救われたかった男の物語を思い出していた。




サイト名:エンジェル日和
エントリー名:さよならを反対から読むとらなよさだよ
日付:2008.8.22


最悪色した あなたのさよなら

わたしは泣き虫色 あなたは玉虫色

What あなたの心の色



夏という季節に 身を横たえる白雪姫

王子様はいつだって 気まぐれなキッスをする

When 優しさに包まれる日



いつまでも待っている oh my summer

波があなたを届けてくれる oh your surfin



だからメイビー届かない思い

ずっと胸に抱いて眠り続ける endless

天使が甘いキッスをしても

あなたじゃなければ目を覚まさない



たくさんの女に許している唇も

わたしにキッスをする時だけは

I believe

月光に濡れて本当の色になる I believe...




サイト名:ひめるのブログ
エントリー名:サマーソフト
日付:2013.9.29


夏の終わりにはサマーソフトを聞くんだ
そう彼女は得意げに言った
英語わかるの
そう聞いたら
なんとなくね
そうしたり顔をする
だったら今ここで同時翻訳してよ
そう困らせてみても
いいよ
そう答えてにこにこしている
じゃあ、と言って携帯でサマーソフトを再生しようとした
彼女は少しだけ待ってといって
心の準備をしたのか
わからないけど
かかってこいよと言わんばかりの笑顔で
いいよ、と言った
再生ボタンを押す
さぁまそー
スティヴィーワンダーを意識した繊細ふうな声で歌いだした
え、翻訳は?
今からするつもりだったの! やり直し!
怒られたからもとに戻してもう一度再生ボタンを押す

さぁまそー
不思議な金魚がー
いつか
バナナになってもー
適当に
やり過ごしてください
朝でーす
みんな起きてください
朝でーす
不思議な金魚をー
迎えに行きます
めっちゃサンシャインですよねー

ちょっと待って今サンシャインってそのまま言ったよね
そう聞くと
だってそうとしか訳せないんだもん
そう嘯いた

僕たちは終わりかけの夏に腰掛けて
意味のない言葉のやり取りで
色んなことをやり過ごそうとしていた
コンビニで買ったアイスが
ベンチの脇に置いたビニール袋の中で溶けていった
そもそもサマーソフトってなに?
そう聞くと
わかんないけど多分なんかもふもふしたものだよ
そう答えた

文学極道

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