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作品 - 20160817_437_9039p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夏が終わらないこと

  ユーカリ

近くの小学校で行われる夏祭りは
屋台から漏れる橙色の灯りや
人々の喧騒や和太鼓の響きを伴って
私にその存在を示していた
でも私はずっとそれとは反対の
日の沈んだ方の空を見ていた

翌朝、件の小学校に足を向けると
お祭りの残骸がまるっと
セミの死骸のように
グラウンドに転がっていて
それに群がるように
熱気から覚めた人たちが
懸命にその痕跡を消そうとしていた

子供達も若干数いたけど
屋台をたたんだり
櫓を解体するのは男の仕事らしくて
捨てられたゴミを拾い終わると
子供達は日陰で涼んで
最近はやりのゲームとか
そんな他愛のない話をして
みんなまだまだ夏休みが終わらないことを
信じているみたいだった

予想通りあまり若い女性はいなかった
鄙びた土地ではあるけど
私がここにいた頃から、若い女の人が
町内会で頑張っているなんて話
聞いたことなかったし
私のことを知ってる人には絶対に
会いたくなかったから

男の人たちは年齢もまちまちで
みんな汗を流しながら重たいものを持っていて
若い衆、とか呼ばれていそうな人も数人おり
その一人がなんとなく
嵐の櫻井くんに似ている気がして
でもすぐに遠くに行ってしまったから
残念だな、とか
そういう軽薄さが私にとって
今はすごく大事なことのように思えた

夏が終わらないこと
サマーイズエンドレスであるということ
私の浴衣には魔法がかかっていて
たいして可愛くもないのに
おばあちゃんはいつも
べっぴんさんだね、って
言ってくれていたこと

櫓の最後の木材がトラックに載せられ
男の人たちは特に感慨深げでもなく
淡々と帰るべき家に帰って行ったのだろう
先ほどまでグラウンドに転がっていた
お祭りの残骸は跡形もなくなっていて
グラウンドの真ん中に立ってみても
人々の喧騒や和太鼓の響きも
当たり前だけど
何も聞こえなかった

文学極道

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