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作品 - 20160716_010_8969p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ふたたびを欺瞞される物語その蝶番の開閉へ

  鷹枕可

夜よ 擲たれたただひとつの粘液質の膠の眠りよ、
今はおまえを探すまい、その咽喉を張りつめる走査線の中を疾駆する乳母車を
玩具の捺花の灰塵がその矮小な町の窓を翳り、見捨てられた群衆の、峡間の橋梁の叫びは誰の鼓膜を軋むのか
しかしおまえが愚劣なヴァイオリン群の偏西風を屈み跪かなったならば、共感質の死が訪れていたことであろう
誰ひとりとしておまえの沓跡を礼拝しない
誰ひとりとしておまえの外套を崇敬しない
郊外より吹く曇雲よ、確実の丘陵に翼を打て
知悉された欺瞞、復は薔薇
その期間を誇る週間が、か細い受苦を歎き亙る迄を、
膠着した峻厳な街路を逸る厩の臍帯が逃すものさえ無い
そしてわたしは知るのだ、夜が切れる間に産み落された幾多の死嬰児の声ならぬ声を

哀悼を告げよ、失われた諸々の春花のために
貪婪な無産階級の疵を疵する網膜のために
そして遂に万物に於いて全能たり得なかった寵児アポロンの紙片を、
齧歯質の鱗粉の燭火が燃やし尽しても尽きない秋霜が、おまえに向い始めて死を告げたとき、
驕り昂る飛蝗培養槽には複眼が切窓の夕刻を鳴鐘していたというに、
総ての美術家は、散逸した花被の終りを炸薬質の工廠に偽造し続けるのだろうか

固着したゾルの河に干乾びた珪藻類が屍を抱く、
それは恩寵であった筈の死後生を酷く陰惨な地下納骨堂の些事に縛り
死の欲動は確たる視野を地底鍾乳洞へ流した 
不確実にも今という過程は未だ誰の眼にも瞠目たる蜂鳥の鋼鉄籠と智慧のフリジアを発露しなくなるだろう
瞭然且つ明暗なる優劣がおまえを色浅くまた深く縁取る様に
居寓者は表象された肉体の樹をもはや死体としての未然の胎に赦すのみだろう

笑った薔薇の季節のなかで
白鳥の脊髄はコールタールの様に燃焼するだろう
自由は鉄鎚の縊死に拠り齎された叛理性主義のなかで
沸騰する暴風雨を喚き
その口角は鶴嘴の風景画に裂開を及ぼすだろう
生長なき種子より曇窓を狙撃手から逃がし
逃がされた乳母車は終に霞の季候を攫む腕となった

多頭蛇海棲百合の棘茎
戴冠せる鱗翅目の聖母遺骸櫃へ落花纏わり
燦燦たる悪事をたくらみて
死後を醒め
途轍も勿き報いを跪き受けよ

聖像たる偶像
概念たる主従転倒
創物家の創造物に於ける優悦を吐き
現世紀たる断食蝕既は
群像人物
復 黄昏時計を留め鳴鐘するよ

瑠璃青たれ
眼窩眼底骨の腐敗沃野より遁れる幌馬車よ
永続の結像体 
現象を撃つを
容貌綻ぶ
巨躯の紙製薔薇より放て

鹹海は懊悩者を放逐し
紫陽花の色なす凱旋門は昼夜の滑車を逸らせたり 

閂に隠匿さる房事  
眩暈を
眩暈は幻視し
非的存在たる巡礼者の外套は喚呼し已まず
ヘルマングリッドの鳩舎は
臓腑室の細緻記録を明滅せる白熱灯なり

写像陰画紙の腑を穿ちて
懐胎想像妊娠の寡婦より逃妄は既製となりぬ

短絡電球の異端嬰児に
蝸牛殻の誕生を
垂涎せる
外科医院の黎明観測家は死に到りつつ
秘蹟の癒着ならず
独尊たる峻厳者
瓦斯室に累々たる多者を未だ人間に拠る尊厳死と云わなく

文学極道

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