浴室にひろがる砂浜では
棄てられたいちまいの楽譜から
水がとめどなく溢れている
そこへ、目をつむった、あなたの顔が
しずかに浮かびあがり
やがて透明な練習曲のように語りはじめる
夜
壊れたホルンをだきしめ
あなたの音楽に耳をかたむけるとき
それはかなしげな牛乳の音楽として
ほとばしる、幻覚的にうつくしい、あなたの
ながい髪を漂いながらあわくつたってゆく
*
銀のマウスピースに唇をはわせ
飲みこむ
そうしてやわらかな円錐形から嘔吐された
むすうの矢は
窓を不規則に叙述しながら
ガラス製の書類の束をやさしく射ぬいて
砕けてゆく、聖書のように、あなたは
語るのをやめない
ことばが、ことばが、ことばが
もはや意味を失ったことばが
食器のように星を触り星座を並びかえてゆく
そのまま星は植物的に地上のビニールハウスへ降りそそいで
土へと、土へと
草が針となって次次につき刺さる
あなたは叫びながらつき刺さる
「あなたは、あなたは、あなたは」とぼくは呼ぶ
あなたは叫ぶ、ぼくにむかって、あなたは
叫びつづける、そして
透きとおった砂浜を背泳ぎする、ぼくは
このままゆるやかに狂ってゆきたい
このままあなたに、つき刺さったまま
あなたに、語りつづけたい
語りつづけるのは
あなたではない、「あなたではない」
「語りつづけるのはあなたではない」と
あなたにむかって叫ぶぼくのほうだ
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選出作品
作品 - 20160713_825_8965p
- [優] 可視光線 - ねむのき (2016-07)
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