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作品 - 20160713_825_8965p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


可視光線

  ねむのき

浴室にひろがる砂浜では
棄てられたいちまいの楽譜から
水がとめどなく溢れている
そこへ、目をつむった、あなたの顔が
しずかに浮かびあがり
やがて透明な練習曲のように語りはじめる

壊れたホルンをだきしめ
あなたの音楽に耳をかたむけるとき
それはかなしげな牛乳の音楽として
ほとばしる、幻覚的にうつくしい、あなたの
ながい髪を漂いながらあわくつたってゆく



銀のマウスピースに唇をはわせ
飲みこむ
そうしてやわらかな円錐形から嘔吐された
むすうの矢は
窓を不規則に叙述しながら
ガラス製の書類の束をやさしく射ぬいて
砕けてゆく、聖書のように、あなたは
語るのをやめない
ことばが、ことばが、ことばが
もはや意味を失ったことばが
食器のように星を触り星座を並びかえてゆく
そのまま星は植物的に地上のビニールハウスへ降りそそいで
土へと、土へと
草が針となって次次につき刺さる
あなたは叫びながらつき刺さる
「あなたは、あなたは、あなたは」とぼくは呼ぶ
あなたは叫ぶ、ぼくにむかって、あなたは
叫びつづける、そして
透きとおった砂浜を背泳ぎする、ぼくは
このままゆるやかに狂ってゆきたい
このままあなたに、つき刺さったまま
あなたに、語りつづけたい
語りつづけるのは
あなたではない、「あなたではない」
「語りつづけるのはあなたではない」と
あなたにむかって叫ぶぼくのほうだ

文学極道

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