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作品 - 20160630_278_8916p

  • [優]   - 熊谷  (2016-06)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  熊谷


電話が鳴っている
誰からの連絡なのかは
わかっているのだけれど
どうにも体が動かない
呼び出し音は途切れず
そのまま肌寒い朝を迎える
そしてもう眠れる夜は来ない
なぜなら
一日中あなたのことを
考えているからだ



あなたは約束を守れず
必ず遅れてやってくる
蝶々結びを結んだ先は
怪我ばかりしている小指で
季節は相変わらず
暑さと寒さを繰り返すばかりだった
待っているのではなく
ここから動けないだけで
指切りはほとんどあって
ないようなものになっていた
ねえ、ここから早く
どこか遠くに行こう
そう思った瞬間
蝶々結びはほどける



わたしとあなたは
とても歌が上手だった
ドからドまで正確な高さで
いつまでも平行線を
辿ることができたし
お互いの音色は
手が届かない場所まで
絡むことができた
あなたの喉を少しなでたとき
太陽がようやく
雲間から顔を出して
夏が来たことを知る
ねえ、ここからどこにも行かないで
そしてもう一度
蝶々結びを結び直す



あなたが走っている音がする
どこを走っているかは
わからないけれど
音がするということは
もうすぐここに
到着するに違いなかった
怪我をした小指に
新しい皺が刻まれたとき
満月がようやく
雲間から顔を出して
運命が動いたことを知る
その間にわたしは
まばたきを繰り返しながら
愛してるに満たない
子供じみたメロディーを
生ぬるいベッドに浮かべて
訪れたばかりの夏を見上げた



ずっと鳴っていた呼び出し音は
手に持っていた受話器からだった
電話をかけていたのはわたし
あなたがとなりにいるのに
気がつかずに呼び続けて
そのまま暑苦しい夜を迎えた
そしてもう目覚める朝は来ない
なぜなら
このまま一晩中あなたと一緒に
夢を見続けるからだ

文学極道

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