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作品 - 20160620_851_8897p

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水に漂う傘

  ねむのき

1

おおきな画布を青い絵具で塗りつぶして、
海を描いた、
その上に一枚の鏡をのせると、
鏡の内側に、
四角い形をした船があらわれる、
という仕組みの絵だ、
黄色に塗られたところは砂浜で、
しゃがんで貝殻を拾っている弟が描いてある、

2

船が、鏡のなかで、
なにかを中空にばら撒いていた、
空と海のふたつの青のあいだを、
色鮮やかなものが、ひらひらと舞っている、

3

(傘だ)

4

曖昧な波音が、
バケツに砂を集める弟の、
はだしの両足の間を流れていた、
わたしは制服のスカートに風をふくませながら、
息をふかくのみこんで、船をみつめている、
水に漂うむすうの傘、
は開かれたまま、
波打際にうちあげられてゆく
(それは、壊れてうち捨てられた、腐ってゆく時間軸のようなものに思えた)
わたしは、足もとに流れ着いた1本の日傘を拾いあげ、
砂のうえに貝殻を並べている弟のまわりに、
日陰をつくってやる、
弟はわたしを見上げると、嬉しそうに両腕を差しのばす、
わたしは弟を抱きとめ、
(ほら、あれみてごらん)
と船のあるほうを指さす、けれど、
すでに船は消えていて、
水平線の上に、
ひとりの男が揺れながら立っているのがぼんやりとみえる、
なにか叫んでいるようだった、
声はきこえない、

5

(たぶん、あの人はもうにんげんじゃないよ)
と弟は囁いた、

6

水のうえをまっすぐに走ってくる男、
鏡が割れて、
青空が音を立てながら粉々になる、

文学極道

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