#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20160503_458_8797p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


19歳の紙片

  mitzho nakata

ぼくは退屈しない


 ぼくは退屈しない
 朝 目を覚ました とたんに窓のむこうから
 石がとんで来てガラスをやぶってぼくにとどいた
 石には 
 
 ── Bonjour! Ca va ? (こんにちは! 調子はどう?) ── 
 
 と書いてあった
 
 畑から飛んできたようで
 星型(hoshi-gta)のがらすのやぶれをのぞくと
 稲穂(ina-ho)のなかでかかしが笑っているのでぼくはたいくつしない
 いっぽんきりの安いシガレットを筆入れにかくして
 ぼくは昼の町へ出た
 
 町には いろんなごみがころがっていて面白い
 バケツを見つけたので蹴とばすと
 なかからカエルが出てきて
 唄を唄ってくれるので退屈しない
 映画館へ入れば ぼくのかわりに スクリーンで
 ぼくのにくい人を (にくくない人も) 殺してくれるので
 ぼくはいっこうに退屈できない
 
 しばらくたつと
 なつかしく
 スーパーマーケットの野菜がひかりだし
 
 もう夜か 
 
 と金色のバスにのって帰ると
 門の前にぼくの猫がぐったりしていた
 
 へんだなと思いつつ ドアをあけると
 真っ白い男が立っていた
 真っ白いサングラスでぼくを見る
 へんだなと思いつつ 書斎へ行こうとしたら
 
 「こんにちは! 調子はどう?」
 
 と どなって来たので
 
 「さようなら」
 
 と 返事したとき 
 
 ぼくは思い出した
 きのうのニュースにのっていた「白い無頼(bu-rai)」のはなしを
 
 まずいぞ どうにかして・・・・・
 
 考えるひまもなく
 ぼくはピストルをつきつけられて 
 いきなりに ズンッ と撃たれた
 ぼくは倒れ 白い無頼の男は 星型のやぶれから
 とんでった ぼくは倒れけど 
 香水のいい香りと少年らしい歌声(uta-goe)が どこからともなくするので
 どうやら ぼく は さいごまで退屈しないようだ
 そこへ また石がとんできた
 
 その石には ──Adieu (さようなら)── と書かれてある
 
 
 やっぱり ぼくは さいごまで退屈しないようだ


好きなもの

 昼より
 夜が
 愛するより
 恋することが
 なめるよりかみ砕くことが
 カタカナよりひらがなが
 降りる駅よりずっと先にある降りない駅の方が
 関西弁より東北弁が
 太宰治より織田作之助が
 文芸よりもアクション映画が
 渡哲也より小林旭が
 小林旭より宍戸錠が
 吉永小百合よりも
 松原智恵子が好きだ
 石原裕次郎なんてきらいだ
 ロックより
 昭和の歌謡曲が
 甘えられるから好きだ
 さすらいが
 アカシアの雨がやむときが
 黒い花びらが
 話しかけてくれる唄が
 くさくてキザなセリフが
 だれよりも飛びぬけた感情が好きだ
 つまり愛するってことをまだ知らないし
 やさしさはぜんぶ
 自己愛にとどまって
 どんどんどんどん淀んでいく
 たりないのは愛だとさ 
 あのツラで愛だとよ 
 恥ずかしくないのか 
 いちばん受け取りたいのは愛だってよ
 どうしろというのだ
 どこへいけというのか
 いくら困っても
 おまえらのところにはぜったいに
 いかないいけない
 いきたくない
 いくら一人一人を信じられても
 あつまりはきらいだ
 隣人と隣人とがとけ合うなんて信じられない
 なにもかもに孤立したい
 なにもかもを敵にしてやりたい
 サイクロン号でぶっ走りたい
 ばか高い詩集をぶらさげた詩人さんよ
 あんたたちの本なんて一冊も読みたくない
 きらいだ
 えらそうな子宮を持った女らよ、
 おれは同時にいろんなものを愛することができるのだ
 読者よ 
 天使とはきみたちのことだ
 おれはきみたちが好きだ
 うそだ
 ほんとうはどうだっていい
 ただ少しばかりほめられたいだけなのだ
 見えない夜明けに向かって
 おれのゆめが泣いてる 
 おれはなによりも
 ぶざまでなけれならないのだ
 しかしぼくは
 ぶざまなぼくよりも
 ぶざまなきみが好きだ!
 

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.