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作品 - 20160429_298_8781p

  • [優]   - 熊谷  (2016-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  熊谷


一斉に咲く花のように
わたしたちは
お互いしかわからない合図を使って
その手綱を引く
できたての雲が
くすぐったくて肌寒い
春の雨を降らせて
会えそうで会えない日々を
重ねて折って
鶴にさえなれなかった
似てるようで似てない日々を
重ねて祈って
この時期はまだ
カーディガンが必要で
傘じゃ守れない
未熟なからだはどんどん冷えていく
遠くから聴こえるちいさな声は
いくつかの川を越え
ようやく鼓膜に響いて
だから切ないくらい伸びた運命線は
複雑に絡み合った首都高に乗って
東京を出ようとするけれど
あなたと出会えたこの街を
簡単に捨てることは
どうしてもできなかった
雨ではがれ落ちる花びらは
無意識のうちに沸いた感情と
ともに足の裏にこびりつく
まだつぼみだった頃の
この季節がくる前の
わたしたちが出会うまでの
あなたのこころを
この雨が止んだら
標本にしてしまいたい
翻る駆け引きと
気持ちと裏腹に散っていく花
蘇る冬の寒さに
悪びれもせず変わっていく天気
あいまいに微笑むあなたは
いつだってわたしを
とくべつに不安にさせる
ただ好きということで
握りしめた手綱が
ほどけないように
標本にするはずのあなたが
ちゃんと死んでいるのか
確認をした
ゆっくりと拍を止めて
今日のことを忘れないように
願を懸ける
そしてもうすぐ
雨は止む

文学極道

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