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作品 - 20160413_908_8754p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ノウサギとテン

  シロ


夜、雪が降り止んだ頃、夜行性のノウサギはいっせいに跳ねだす
カンガルーのように飛び跳ねる後ろ足の腿の筋肉は巨大で
前足と後ろ足は途中で交差し、雪原を跳躍する
むき出した前歯をそっと樹皮にあてがい、かりかりとかじる
あちらこちらで、かりかりこりこりと瞼をあけたまま
闇夜に放心したままの眼でかじり続ける
ときおり、レーダーのように耳を立てつつ、方角を変えて音を探索する
いたたまれない抑圧を
太い腿や鋭い前歯に詰め込んで、ノウサギは夜をはねる

やがて、雪面を愛撫するように、足跡を擦り付けてゆく
それは自らの存在を柔らかく消滅させるように、入念に雪面に修辞する
命を守るために、存在を形にするために
足跡を痕跡を、カムフラージュする

朝から猟人は、雪原へと踏み入り、ウサギの足跡を追う
パズルのようにカムフラージュされた痕跡を静かに追い
いくつかの狡猾なトレースを残し、残された隙間へとダッシュする


     *

尾根を登り切ると視界が広がる
無雪期には田であると思われる地形だ
その畦の近くの堆積した雪のひび割れから
黄色いテンが顔を出している

双眼鏡で覗き込むと
テンはこちらに関心があるらしく
じっとこちらを見ている
私が敵なのか獲物なのかを判断しているのだろうか
それとも、ただ無造作に立ち止まっているだけなのかは解らない

一帯の地域を転々と回り
ウサギを捕食しながら生活しているテンは
雪や雨風をしのぐ、田の畦の雪のひび割れの中で生活を営んでいるのだろう

ウサギが獲れない日は、空腹に耐え
土の中のミミズを吸いこみ
胃腑に収め、雪の隙間の苔を舐めているのだろうか
あるいはもう一歩のところでウサギを取り逃がしたとしても
テンは何食わぬ顔で巣穴に戻り、じっとうずくまって
温かい血肉を想像しながら眠りについたのだろう

あるときは大きなウサギを捕らえ
腹をふくらまらせたとしても
稜線に沈みかける夕日に涙することもない

厳しさと激しさと
子への愛だけにすべてをささげたテン
それは、はかなくも美しい黄色い色合いで
ほどよく白色が顔に混ざり
私をじっとしきりに見
少しだけ小首をかしげていたようだった

文学極道

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