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『お先にー、お疲れ。』、仕事場をあとにする。着替え室で『ズボン』と言ってズボンをはく。『靴下』と言って靴下をはき替える。建屋を出たら外は心地よい風が吹いていたので、ふいに、『風』と声に発した。
冬の吹く風が暖みをましていた。春の到来を告げてくれている。空気の流れを頬に掠めたとき、思わず『風』と発した言葉について歩きながら思い返した。歩きながら少し不思議な気持ちになり考えていた。風という一語を声にした風は、
ひとつの同じ風。
、ふたつは違う風
ふたつは同じ風。
、ひとつの違う風
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かかとの鳴るブーツが身軽に角を曲がります
ほとほとと花と水とが匂いたつ行路を夜過ぎ
石垣に並んだパイプの口から漏らした水の先
グランドピアノ脇に写る譜面が二つに割れる
トラデルシアトラヴィシア南から吹く風釦釦
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よろよろよろめいてよろよろと座り込む手にとる一輪の野の花も 土につまずく小さく転がる紫露草の葉がフラワーフープを幾重にも腰に巻きつけ車輪のように浮かせている 花は思わずよろめく手向けた花弁の襞のもうひとつ奥のリム 坎から芯髄を覗かせている
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山むこうに山がありむこうにもまた山がある
道の先には道がありその先にもまた道がある
花のなかに花がありなかにもひとつ花がある
君の奥には奥があり奥の奥にもまだ君がいる
私を知らない人を知る人を知らない私を知る
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選出作品
作品 - 20160405_741_8739p
- [優] 風 - 玄こう (2016-04)
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風
玄こう