天井は軋み 脚はしろく弱々しく
その脚を拭う間も 天上は軋み
天井は軋み 初不動の日 花はふるえ
日は削ってしまおうと大工 天井は軋み
+
世に夜が詰まり朝を締めあげている
裸木は巻き込まれている 水を与えてやる
眠気も抜けきっていないのに 丁寧虹のある
デスクの中を確認する 湿度計を確認する
+
午前四時というと やぶれ長屋に闇が漏り
眼をひらく者 闇に眼をやられ
呼吸をのぞむなら 星の発光
その連続 連続を孕みつつ午前四時は過ぐ
+
目覚めは 男は男であると信じさせ
目覚めは 女は女であると信じさせ
ベッドからおりたら 生き方は選べるのに
似合っていない服を着るとこころが軋んでしまいます
+
夢を脳へ押しこむ強さで 何か殺めたい
時間が時刻を譲らない力で 何かを殺めてみてもいい
そして神へ捧げたい 神が喜ぶところ平然と立っていたい
本当はこの貴重な一日きっかり 無駄に捨ててしまってもいい
+
日に命を吹きこんで 立たせてやれば駄目な日で
こんなにグラグラしては あんなにグラグラしたままだ
日はいつか寝小便しやがって 懐かしさの摩擦に燃える
そんなにグラグラしていれば きみの歯のことだよ
+
言葉より退いて預けて 野へと出た
花の女神今日ない と教えて貰う
風は冷たい 火は冷えびえと
案山子が燃やされている
+
言葉は永遠遺るもの
言葉は永遠へかえるもの
言葉はとにかく強いもの 鉈を洗って鉈ひかる
言葉はよわよわしさで沸騰するのに
+
鉢の金魚は沈んでおり 鉢の表面は凍っている
氷は氷らしく黙すばかりだ
花が咲き この言葉不要のさいわいの季節
どうしてペンを握って感じている
+
これはバナナではない そう呼ばれているだけだ
私は私ではない そうのぞんでいるだけだ
頭の中の茸は 畢竟フランスの国旗であるが
さっきのぞきみた茸 そう記述したいだけだ
+
もっと食べるにしてもものがなく
ものがなしく 仕方なく空気をいただく
枯渇しつつ 命の循環の中で
打てば響く 触れれば湿るこの地は何か
+
安定剤で背骨を焼いて ふつつかですか煙を吐いている
会話の芽は開いて 花々が閉じていく
あっけらかんの空で正しくゴミは分別されている
否 何も確認しなかった だいたい眼球のオイルは切れた
+
パンの耳が聞いている朝
昨日の終わりの一片の感光 その響きを
期待して この小さい影は立っていたか
ああ 確かに少年で 見ろ 握りこぶししている
+
よしなにしなさいは反復され
反復された分の喧嘩はよしなにした
熱い風はもう吹かないが ミサイルが飛び
しかし眺め入る空に雲一つなし
+
血は胃袋へ向かい考えられない
善意を御金で示してしまった
まだ眠かった 電話を待っていたのに
電話が夢の中へ流れ落ちていってしまった
+
唯一の枝は折れそうに 枝に葉はない
向こうから前髪まで風が吹いてくる
くさはらを旅人のように眺めつつ 畢竟旅ではなく
鳥のようには歌えない 鳥のように他の地を知らない
+
春をのぞんで児をなでる
花郎がとべば露となり
凶所を知り尽くしつつ もう運は関係はないと
もうまぼろしの蛇と遊ぶ 歌を書き下した
+
火の不知は知っている 火は少しぬけている
雨で舌は洗えない 雨が洗うのは路傍である
画家は瞬間の反応に 時間を経ているのか
彼らに私のフラジャリティを嘲る資格をやる
+
星は日がまぶされて消えたこと 実際
その時をしっかり見ていなかったことは省略しつつ
星は日にまぶされて消えたこと 実際
遺ったものは 言の葉の香り
+
日は絶えて 冬の昼は涼しくなった
益々寒いといえるほど
百に一つのさいわいは蜂蜜の飴玉
もっていると知れても知られなくても構わない
+
ゆるりの音は暖簾をあげて
油に水の われわれは天ぷら蕎麦にサイダーをいただく
預言も未来ももう要らない
油と水の 共通項はそういうことだった
+
赦されつづければ生きていけるのかと はた
それは赦されないことと同等であった
月がきれいですね 月がきれいですね
青空の下 地蔵菩薩を雑巾で拭いつつ
選出作品
作品 - 20160211_642_8622p
- [優] #10 - 田中恭平 (2016-02)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
#10
田中恭平