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作品 - 20160111_181_8565p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


緋を撒く鳩卵に係る鉛球の死、それら苦艾に附いて

  鷹枕可

――
言葉が嘱目を遁れる、瓦礫の鳥瞰図の様に
                 ――
      *

閉塞の蒼顔が燃焼室にガラス片の祈念を唾する
肺腑の市庁舎前には幌附自動車の、受話器の、蝋管の隠喩が新しく刷られ、錆朽ちて以後始めて破綻を赦された

浅橋桁にチェロの屍骸が舫いながら、水滴の絃を振り翳した
洗面器には三人目の姉妹の頬白い刎首が置かれた

磔刑像を遠く潜望鏡に泛べながら、二十一世紀は酸素罐の気泡を畏敬する蜘蛛の花を置いた
飛躍の無い四大季節、
近代建築家は
滂沱するアルミニウムの夜に積る煤煙の円筒を辺縁に、
歯茎の潤滑液を航海する輸血車輌を採算に宛てたが、
煙草の葉、或は樹脂は
セロファンの侮蔑を灌漑塩湖の死以降である食卓に縹渺と展開をした

      *

――
即物が抽象を遁れる、植物写真家の幾多の指列の様に
                      ――

褪色の雪柳花は瞼の幾何学の残影に
仕事台の焼鏝と、
砂糖漬の
膵臓腑に添えた漿果、迄を被殻に泛ばしめ乍
冬薔薇の主題に拠る
円筒形歌劇の燦爛を嘲笑っていた
眼が禽を追随する様に
或は施錠された
禽舎錆鉛の
格子戸は
水銀液に熔融されたエスキスを起草した
眼はつまり散開を、
若葉色に
蜻蛉の悉く白い唇舌として記述するであろうが
彼等抑留者は、
酸い青紫陽花を、
人間像を咀嚼するべき歯肉より取除いた

倦厭と陰鬱に拠る手仕事は
洞窟修道院の以降、
悔悟する
巨躯の鍾乳円錐形の静置切窓、
その衣類は
凡庸な駅舎広場の凋落でもあった
閑散たる群像に結膜の繊維組織を捩り
黒蝶の被覆された五指は
瓦斯管の塩粒程の堕落は
果して、
死後の精神的存続を絶無へと復すか、

石炭燃焼室と塑像の、つまり
痰壺の房事
真鍮歯車は即物網膜を裂罅の緞帳へ隠匿した
瑠璃青は
死者の様に聖母子像に腐蝕を及ぼし
又、眼球の部屋は
濁流の
既製剥製美術の驚愕へ
一擲程の価値をも否認した
二十世紀は煤煙の第六天体、斯く印象を場所さえも勿く
橄欖色と書簡に移譲し
些末な骨盤骨は
静物の蝶翅であった

巨躯の銅球、
地球儀には盲目の類型が紡錘車を廻し
火薬の趨趨たる沓音は
些かも新聞紙のインクを固着し得ない、
眼底を奔逸する、
彼等の緘黙は
夜々の機械工場に人物的影像を展開するだろう
菱花鏡の口唇は喃語に欹てられ、
蝸牛は粘膜の器官に
包装材の美術に葬礼を執り行うだろう

運命は、死であり
過程は、苦悩の頤を懐疑した

見よ、汝汚濁の神経樹を、

すなわち透澄なゼラチンの血塊が、
総ての咽喉骨を
間断勿く呵責する死海の乾板写真より裂断し、縫綴じる時刻、
亜鉛緑礬に縁る秘跡の懸架を、
抑留の眼へ眼を以て、
復讐の指勿き復讐の様に、科す

      *

――
印象が物象を遁れる、間歇噴泉の様に
               ――

製図の薔薇が硬く、建築家の扁桃腺にアダム氏の眼底骨を投射している、
  鏡の死は鏡を遁れる事は叶わず
    総ての棗樹の影像が貴方たちを愛している訳ではない
  翼の容の花々に
    眼が開戸の死者を燈す様に、
        書簡は鳩の一週間を蹴り遣ったが、凡ての壜乾燥器は緩やかに旋回するべきであり
      彼等の存続は矮小な些事に過ぎず
   一擲の橄欖実は錫の罪科を、のみならず乾花の砂糖へ換骨するに留まらず、
     瓦解した筈であった
        天堂球体に磔像の売却許諾書を認めた、
  それら彼此とも勿く、
 喚き嘆く奴婢や、端正な胸像群に於ける模倣の起源は話言葉の端著な蠅の棲処であり、
   アダム氏の眼窩には
     血盟聖書に基づく卑俗的存在者への呵責が
    聳える水煙の間歇泉の様に傾聴に組織化さるべき群衆を離散せしめた
  拡声器には安易な私語が在り、静穏には瞬膜が在り、
       実存の確かな絶無が
   彼等の襟頚の釦を翳し、逆円錐の建築はペルシャザルの死と等しく、
     曇窓に指されるだろうか

      *

――
条理が条理を覆した、樹々の様に
             ――

鍾舌の確実な悔恨は、
  彼等越境者が死の臨床に安寧を仰臥せしめたことであったが
 それすらも辺縁を置く、
   檸檬の炸薬や、菱の鉄槌に縋る殉教徒達の精神を鵜呑みにはしなかったであろう
       喘息の磨硝子は隔絶された、
  柩の純全たる疱瘡、それらの被膜に拠って
          機械的な聖像礼拝は、又、機械的な破壊者達に縁り批難され、
   潰滅に晒された者達、
      焼夷爆撃機の花束に葬婚の容貌を投影する様に、
        死期は窓を叩き、誕生花は尚も翰墨に在り、麦熟時の髄に有らんとする
     肉叢の眼はすなわち血の鉱脈に凝縮した
  萵苣の裂断を夥多な坩堝群の鉛液に混濁せしめつつ、
          腿の鬱蒼鏡に彼等の醜怪且つ優美な観察眼を投影した
              正義とは趨勢の一過であり、悪は人物像に於いての現実であった
         揺籃期への物象、
   つまり組織繊維の神経は雲迄をも攫む下腕の剰余な俘虜を蔑視し、
      刎頚は青草色の、蛾蘭の茎を吐露したが
 気圏は既に蕨と薇の刎頚を拒み創めていたゆえに、舞踏の両脚は弧線を画かず、
    各世紀を跨ぐ国家論は、
         今絶えた鹹い灌漑の沃野に過ぎない、
            そして亡命者達は夜々の鱗茎蝶を壜詰の真鍮螺旋の器官に、鏡の投身を遂せたのか

      *

――
迷宮建築家の胸倉には砂鉄の聖母が指する既製の薬籠棚が在り、地下霊安所の白熱燈が網膜的即物を謳う
     それらは純粋な緋色の鳩卵である
                  ――

文学極道

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