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作品 - 20151217_738_8509p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


九つの死骸への彌散曲に基づく擬態の花々に於いて/アレンジ

  鷹枕可

――烏賊墨色の花が樹に延展の幅を齎す――



     *

私は/
私は悲しい告白の俘虜なのです
私は私の記帖の悲しい俘虜なのです
私は悲しい俘虜なのです鉛の
私なのです鉛の記帖は告白の悲しい俘虜は/

/
実験室に於ける鱗翅目の乾燥処置
    或は永続の鳥葬の部屋に眼を眺める眼が腐敗した/


     *


黄薔薇の緘黙、静脈の乾酪運河が紫葡萄色の肺胸の建築に微か睡眠の容を縁取る
ダンテル紙の白聖母の様な網膜的愉悦は咎められるべきだろう
複眼的立体派の関節は軋み、
内在律と外在律は、等しく星空に展開された完膚球形の白熱電燈に過ぎない
彼等は真鍮の慈善運動を蒙るべき五旬節迄の第一週間を鵜呑みに乾した

肉叢の鉤が咽喉の翡翠石に投錨された時刻、
それは寡婦からなる想像妊娠の宛にもならぬ陰画に被写界を透過せしめ
後衛の骨格標本室は乾藁車の明喩する場所であり人物像である覗窓の、
告解室の牡牛にも立棺のダヴィデは躊躇わず処刑室への硬い過程を擬えていた

切窓より赤薔薇を伝書する郵便の、
それも確かではない採鉱地帯の鋼版画にも
俯瞰するべき積乱雲の脈動が徐に試験紙の饒舌を静穏にも咎め、凡庸な血塊の多翼祭壇が爛熟する

聖霊秘蹟の瘢痕は
或る奇蹟の婚姻へも呵責を及ぼさずには機械の肖像さえも、マレーヴィチ氏に拠る絶対抽象の黒窓へは展化し得ない
旧新鋭的概念の回顧展覧室に基づく
遍在者の話言葉であり
彼等が畏敬する聖像礼拝であるべき優美な呪わしさに拠っては、一握程の腫瘍さえも齎さないであろう

ノスタルヂアの玻璃窓のただなかに雲霞を掴む人物像は
その極微的なる繊維材の白絹の遺骸にも跪き
歯茎、又は蕨薇の渦巻は、螺旋の錆び果てた或る工房の蝶番にも蛾蘭燈の瓦斯を充満せしめた
死体の殻であり、衣類の表象でもある黄昏の褪褐色を蒙りつつ
終に書言葉は書言葉ではなくなるのだろうか

つまり普遍物象にも始極と終極が存在する様に 
拡声器の勿い街宣車が黒くなり、
房事の窓板に遮断器は事有る毎に翳を射し
空襲市街鳥瞰写真は領有者の権限に一瞥の窩底骨を向け乍ら、終に図案集の辺縁には静物としての生涯が擱かれた

壁龕の地下には埃に縁る人物像の腹腔が収縮と膨張を脈しながら、拘縮した冬薔薇の死、も
凡て、虚誕と孵化を繰返すべき由縁は何処にも勿い
然し絶無を指標にして、万物を亙る彼方方、までもが若草の縦横に綻びて行くのか

それらの鈍鉄色の竈には星々が擲たれ、
軌跡は死後生の無概念でもある橄欖樹の手簡を伝書として、戻り来るべきなのだと彼等は口々に罵り
そして
二重に韜晦された空部屋が死の季節に一匙の鹹い海を啜る時、
それは白痴の言葉となり、
影像の晦瞑鏡は客観でもあるべき観察眼にも苦蓬草色の地球を目下、弛緩する骨董美術的な無価値へ宛がうのを否むべきか、否か

      *

/
汚濁の精神像は
 階段の結膜に一匙の暗緑を贖い
    死後の入殖許可証は頻りに印刷世紀の欺瞞を秘匿し/

      *

暴風に撓む柱時計があり、
季節は死を指する
記念室には
乾燥した菫が逆さに磔けられ、
茎の髄脈にアメジストの工廠が抱卵され、
裂開線上の
「」
が著述と市街地に
建築を等しく執り行った
「」は彼等の契約の箱であり
従って絶無を閉塞し、
侭有る形象、
存在の確たる致死への過程は
空間の繊維隔膜を紡績機に拠り創物としたが

/
鋭角の議事講堂には
  惑溺の青と滑車を錆附かしめる海縁が
     梱包美術にも抱卵室の一過的な遭遇を確約する/


灌漑された鹹塩の花々の総てを
不在の戸籍証書は
眼球の地平線、
つまり月球儀の引力に拠る抛物線の被膜に埋葬を施し
容貌の薔薇は褪褐色の死骸となり
現代は
叛美的概念を遺失した
彼等の観察眼の俎上にも抵抗として
滑稽の飛花にも
一縷の脈血を滴らせる

/
水銀温度計が磔けられた食卓
 鰊の骨肉は日曜の広告紙の様に燻る煙の花綱飾りでは勿く
或る死を再顕現した奇蹟の
    つまり緋の埋葬であり/


葡萄樹に展翅箱が擱き去られ
実像を実像足らしめる網膜に拠る痴夢が現実と呼ばれ
途轍も勿い不実
確かな咽喉を
滑車の慈善週間が仮睡の眼に瞠り
蜉蝣の口吻は
すなわち薊の臓腑を過り
濁濁たる混声合唱曲が
一幅の赤窓に、鉛丹の聖母像を印にする時
死後、墨染の螺旋劇場は受肉の告示に充満した
、が饒舌を裂断する緩衝液に
一個の薬莢を溶解した
黒白、左右、光と闇の遠近透視図法
ピアニストの鍵盤に
、が刎ねられつつ苦悩の浅慮を嘲っていたとしても

/
赤窓のカエキリア女史は花椿の咽喉をけたたましく喚き
 晦冥鏡の洗面台には
  剃刀の静物が
まるで潤滑な死病の様な白紙繊維を捲る食指の零を延々と聯ねた/

     *

腐蝕臓腑の慟哭が一週間程の薔薇の血膜を綻ばせる頃、緻密な死の寓喩が些かの鬱蒼を俯瞰する
実に幻燈機に敷かれた葉は断頭台の球体であり、
狂人の致命の踵からなる黙示録は死と記述する毎に簡素な脳髄液を傾けて否認を否認するだろうか

     *

/
汝、凍蝶の全翅脈たる蘂髄の壁を打て/


瑕疵の擬真珠殻が
胚種の発達学を顕微鏡に眺める頃に、
撃落された楓樹の翼果は
すなわち
褪色の町にて散開を果す
瑠璃青の裂罅よりビロードの食指が
死者の頤を擁く
それはまるで骨壺の乾燥花の様であり
些かも
昏婚礼に影像を翳し遂せない

     *

/
記念碑としての石膏
彼の影像が縫綴じて行った各々の為の放火魔は
 純粋円錐劇場の事象を
   橄欖樹の枝葉に映写した/
  映写された唇は遂に曇花の板窓
つまり鏡に於ける錯綜、紡績溯行であり
  平衡計は峻厳にも絹の自己像へと懐疑を撤いた/

     *

――見よ、漆喰建築の被愛にも似附かわしく勿き骸骨の夥多が、驟驟と凱旋門の精油罐の秘蹟を追随して行くのを、

     *

文学極道

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