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作品 - 20151205_380_8475p

  • [佳]   - 山人  (2015-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  山人

地球という惑星にあふれる水
その水は塩辛く、潮くさい風に揺れている
島が見えるのはまれだが、今日はぼんやりと見えている
島は左右対称ではなく、複雑な凹凸をそなえ、夜には短い光を発していた
黄昏るとき、ふくよかな夕凪があたりを包み
その穏やかな空気を楽しむように海鳥たちは不規則に飛び交う
誰にでも見えるわけではないこの島も、また夜をむかえた
闇が打って一丸となって波と融合してゆく
微動だにしないこの天体の隅々をめぐる体液だけが
執拗に活動を繰り返しているのだ
ちか、ちか、
波による微動なのか、光は点滅するように島に近づき
数々のひかりは島で打ち消えた



島には幾人かの人々がいて、私も居た
声を奪われ、思考さえも奪われている
そういう人々が働かされていた
島には田園があった
主食の穀物が平らな地にならされて、いっせいに刈取りの季節をむかえていた
眼鏡をかけた青年と錨肩の初老の男の息が田園を大きく支配した
ゆらゆらとした気持ち悪い風の中を、滲み出る濃い汗と脂を舐めとると
あきらかに囚人のような私がいた


島は晩秋をむかえていた
田園作業が終わると私たちは森へと作業の場を移された
島の森は豊かだった
木の梢を渡るリスの動きや、男根のような菌類が枯れた大木に所狭しと現れ
なかまたちは喜んで休憩時間を過ごした
すっかり葉が落ちた森は、私たちの声が木々を素通りし、良くとおった
あらためて見る樹冠の上の青空と
洋々と動く雲は今までの苦しみを押しのける気がした
なかまたちは嬉々として冬になる現実を受け止めている
冬になると解放されるのだ
柴木を切り捨て、さらに大木を切り倒すころ、やがて確実に島は白く覆われる

彼らが離島する前に、木の実でこしらえた果実酒を飲んだ
作業の合間、少しづつ溜めた木の実を発酵させ木の洞に仕舞い込んでいたのだ
私たちは、たがいにその時々の労働の辛さを語り合った
饒舌に笑い飛ばすことで苦しみは翅をもち、異国へと飛び立っていく


島には初雪が降り、やがて根雪となった
いま島には、島主とその補佐と私だけが残されている
島はあきらかに冬になっていた
波は狂い、いたるところに寒さが占領している
剥がれかけた私の頬の皮膚を容赦もなく横殴りの吹雪が打ちつける
飛沫は水際におびただしい泡を生み
何かを目論むように揺れている
海鳥は強い風を尾羽で制御している
少しだけ風は凪いだ気がした。

文学極道

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