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作品 - 20151127_069_8457p

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神様のはなし

  熊谷


 神様にGPSをつけたら、わたしの家を指し示していたので、その日はいつもより丁寧に掃除をして、いつもより野菜が多めの食事を作るようにした。そうしたら、旦那はいつもより口数が多くなり、おまけに体脂肪率も減っていった。わたしたちはきっと今までよりもほんの少し、お互い寿命が伸びたように思う。神様は、わたしたちの未来の時間になった。

 神様にGPSをつけたら、近所の公園を指し示したので、行ってみたら蝉が死んでいた。まさか蝉が神様だったとは思いもしなかったので、大切に公園の隅に埋葬することにした。手を合わせて家に帰ると、玄関にも同じように蝉が死んでいた。GPSを見ると、相変わらず埋葬した場所を指していたので、玄関先で亡くなっている蝉は神様ではなく、ただの蝉に違いなかったのだけれど、神様の隣に埋葬してあげることにした。神様はときどき死んだふりをして、わたしを試そうとする。

 神様にGPSをつけたら、どこにも指し示めさなかった。どこにもいないのか、特定できないようにしているのかわからなかったが、旦那の体脂肪は相変わらず減ってきているので、いつもと変わらず丁寧に掃除をして、野菜多めの食事を作ることにした。食事をしながら、おいしいねと言った旦那の口元にえくぼが浮かんでいて、その瞬間GPSが家を指し示した。神様はえくぼでひと休みをする。

 神様にGPSなどつけられない。物を書くようになってからよく嘘をつくようになって、それをほんのちょっとだけ反省をしている。それでも、目に見えないことを信じようとすること、その行為そのものがとても愛しく感じられる。わたしたち夫婦がどんな形で結婚式を挙げようが、どんな形でお葬式をしようが、そして神様がどこにいようが、どこにもいなかろうが、そんなこと本当はどうでも良かった。冷蔵庫の中身を見ると、野菜が少なくなってきているから、スーパーに行って特売の野菜を買ってこなければならない。わたしにとって本当に大事なことは、そういうことなのだ。

文学極道

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