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作品 - 20151119_758_8437p

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山手線と、終わらないダンスミュージックのはなし

  熊谷

品川駅で鼻が落ちていたので拾ったら、やたら潰れてしまっている鼻だった。覚えている、これはあなたがわたしの低い鼻をからかってつまんだときの鼻。
有楽町駅で左手が落ちていたので拾ったら、やたらと表面がスベスベしていた。覚えている、これはあなたがわたしの手の平の感触が好きで、何度も握り返したときの手の平。
東京駅で右足が落ちていたので拾ったら、なんだか痺れていた。覚えている、これはあなたがベッドの上で、ふざけてわたしの足を挟んで押さえつけたときの右足。
上野駅で両腕が落ちていたので拾ったら、やたらと冷えていた。覚えている、これは留学に行ってしまったあなたを、寂しく見送ったときに振っていた両腕。
巣鴨駅で右目が落ちていたので拾ったら、やたら涙で濡れていた。覚えている、これはいくら連絡をしても、あなたから連絡がなくて不安になりながら過ごしたときの瞳。
池袋駅で唇が落ちていたので拾ったら、すぼめた形で凍っていた。覚えている、これは別れようと思ったけれど、うまく話を切り出せなくて固まってしまったときの唇。
新宿駅で左胸が落ちていたので拾ったら、鼓動が激しく動いていた。覚えている、これはあなたとさよならしたときの胸の高鳴り。
渋谷駅で、いくつかのパーツを拾い集めたとき、間違えて誰かのメガネまで拾ってしまった。あなたのメガネでもないので、ひどく困惑しているところに、山手線はやってくる。
恵比寿駅に着いたところで、右耳以外の全てのパーツが揃っていた。改札を出ると、見知らぬ男が立っていて、それは僕のメガネだと言う。メガネをあげると、男は突然右耳をむしり取り、それをわたしの右耳としてくっつけた。耳を失った男は、今夜は終わらないダンスミュージックを聴こう、と言って、もうひとりのわたしの手を取りどこかへ消えてしまった。片耳しかないのに良いのだろうかと思いながらも、私は改札のなかに戻り、あなたを好きだった自分とさよならするために、鼻を取り、ぐしゃっとつぶして品川駅へと向かった。

文学極道

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