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作品 - 20151116_626_8428p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


マチ子とブタと病室で

  尾田和彦



ジプトーンの天井を見つめながら
病院のベットに横たわったブタは云った
俺には心臓が無いんだよ


看護師のマチ子はブタの脈をとった
どういうわけかしらね?
ブタはもう一度云った
俺には心臓が無いんだ


ブタの白くて柔らかい肌には黒い斑点がいくつもあった
ついでに云っとくが
俺には血管もない
採血しようたって無駄だぜ
看護師はなにかというと血をとりたがる
俺には流れる血もない

マチ子はメディカルバックを窓際にやった
ブタ君
怒らないできいてくれる?
君はもう死んでるわ
残念だけど・・

ブタは錯視の眼でレモンに齧りついた
孤島の村の
病室の窓からは
白い浜辺が見える
バカ言うな
俺は生きてる

何なら今ここでお前を抱いてやったっていい
警察呼ぶわよ
死体を逮捕する警察なんているかよ
あなた
気分を害するかもしれないけど
人間の世界ではあなたのことを
「死」と呼ぶの

ブタはマチ子の唇をふさいだ
ブラのフロントホックを左手で弾くと
ブタはマチ子の上にのしかかった

雲が
動いていた
真っ青な
空の
8月の入道雲が
病院の窓から
見えた

心臓の無いブタの
ブヒブヒいう啼き声と
すすり泣くような女の声が
ミンミンゼミの鳴く声が
アブラゼミの声が
ブタの泣く声と
女の鳴く声

そして時々
女は
愛してると云った

死んでるワ あの人
マチ子は漆喰の板壁に背をつけ
驚いたような顔をしている
ブタはたった今
死んだよ

警察の人がきて
脈を診ていった

ブタから流れた血は
一滴もなかったって
警察のひとが
ちゃんと 云ってたよ
マチ子は漆喰の板壁に背をつけ
驚いたような顔をして

警察の人がきて
あの人が云ったように
あたしたち
最期まで
逮捕もされなかったわ

文学極道

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