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作品 - 20151103_058_8401p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


或る気候の噂の為の十一節からなる唱歌

  鷹枕可


I
/
楡の瘤の節節のなかに破裂する暴風よ
それは膠の匂う革命家達の踵より剥された平目の容貌であり
機械装置の鋼の筋筋には卵黄が剃刀に拠って垂線を滴らす 
かの少年は放火魔であり又、敬虔な唯物論者たちを酷く落胆させるに充満した紫陽花を慣用した 
紫陽花の眼の中の眼 それは見開かれた固形の秘跡であり 従って叛概念的なエクリチュールの一把である

汝城牆の遙かな短足を揃え 眠らせよ 
子午線の半球には欠損されたユピテルの彫像を擱き 新鋭の国家主義が内実の虚誕を明かす様に
花々は受粉しない 器官は咽喉の鐙である故に舞踏をしない
何故ならば既に敷かれた屠殺室への波斯絨毯を跨ぐ亡命者を瞠っていたから
/


        *


II
/
雨がそぼふります 偽物の天文館に
 ほら あなたにも 聞こえるでしょう
/

III
/
脳梁は加湿の無慈愛をまるで
無花果の存在しない書言葉の如く運河に流した
水滴の部屋部屋は
浅はかな事象を
縁取りながら
乾燥した背骨が麗らかな憂愁を幾多、
白樺の様に聳え
建築せしめている

第五季節からなる
私物の落款印は
錯綜される不織布の吹雪を
見えることなき窒素瓶の翼果に抑留し
天球室の肉体は
人体標本指標でもありつつ
微動の緻密俯瞰図に一縷の散骨を執り行った

若しも赦された
夜の翳が繊細な樹々を揺らすのならば
耳鳴の確かな尊厳死を脈する
薔薇の透膜は
何と泛ばれないことか
 
死の端端に
物憂くも腐食された蝕既を修飾している凡ては
拠るも拠らずも等しく
空襲の災禍を鵜呑みにするよりは外勿く
/

IV
/
若し時刻表が終わり
    停車場が永続に留保し
   肖像写真のみの記録に偽証されるならば
      私は私は私は私は私は私は/


V
/
肉体像は逞しく
彫刻の均整律は
結膜を捺した人間の理想像の印象です

精神像は美しく
母語の麗かな痴呆病は
統一を透徹した翻訳者の薬莢です

そして
肉体精神の優美な呪わしさは
解かれた鋼版画にのみ着眼を赦された苦蓬の天体儀 
即ち
地球に存続を置く
瓦斯と煤煙の曇窓の花々
それらの間歇的な慈善に満ちた積乱雲をも攫もうとする指でしょうか

よもや、
継母の晴がましい鏡像は椿花の脇腹の縦横に倒れた楕円の卵膜であるかも知れなく
/

VI
/
私に影の確かな重量などがないなら
誰彼の影も観えないのでしょう   
 斜陽にとじこめられた部屋は
 何処、迄も
     影像の非在を明かせ、
/

VII
/
ああ ああ

窓枠を
闇の闇から呼ぶ声が在り
私達はそれを死と等しく呼び慣らした
/


        *


VIII
/
黎初の始祖鳥が/ブドー収穫期の気候の納棺室に/
比翼の光彩を尚且つ峻厳な鉄鉱石に搾り/純物質の過剰凝縮を/ 
第七週間程の福音書の虚実と秘蹟に/完膚勿き迄に拘縮した/
指された薔薇綱目の嗚咽は/後衛美術の画廊に斃れるカーネーションの疵附き易さにも近似し/
或る人物像は泥を啜り/或る彫像は影の断層に/
既製的な/口を極めて凡庸な/被空爆以前の市街地鳥瞰写真である均整美の鋳物を渉猟し已まない/

現像液の房事を/群像の心臓の錆釘は震顫せしめ/巧緻な修飾美はいとも容易に裂開される/
酪乳の結節に溶融したベルニーニの確証は/それ即ち石膏の蕨薇文様を擲ちつつ/
乾板写真と叛現実に裂かれた/確たる孤絶/それを斯く迄も境涯に徹底させずには/
微動する陶磁の生花/或は手鏡の死迄も/常に腐敗としては処置され得ないだろう/ 
鹹い季節労働者らの諜報は/市長室の花菱模様の壁紙に延々と/鉛の瓦斯管の終りを告解していた/


IX
/

ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ

/
X
/
秘蹟であるべき両性具有の投身を指する尺度は鋭利な叛概念にさえもならない 
 半ば迄溶暗の部屋部屋に縁取られた
  巨躯のノアの逆様の昏がりへと
   幼時洗礼と葉の唇の眼
     それの復讐を、

        垂れ込めている血の卵/
              或る気候の十一節の唱歌までが疵

/
Ⅺ
/

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