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作品 - 20150915_904_8312p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ねずみの尾に口付けを

  ペスト

誰もいない教会の中で
 息を吐く一匹のねずみがいる
蜘蛛の足音に耳を澄ますと
 空には鳥が浮かんでいた

腐乱死体は缶詰めにされて
 森の奥へと出荷される
  全部で96個
   数え間違いがなければの話だが

嵐の中に卵を産み付け
 蝶は涼しげな顔をして去っていった

椅子の背もたれには女の二の腕の皮が使用される
氾濫した鳥のくちばしをひとつずつ摘み上げ
 それを夢遊病患者の長い舌の上へと陳列していくと
  私は決まってこう言うのだった
  「ありがとう。」

重りを吊るしておいたおかげで
 時計の針は常に6時半を刺すように躾けられていた
血の流れに沿って
 魚の背びれは裁断されるだろう
丘の上に放牧される果実の産毛を刈り取りながら
 結露した明かりは徒刑場の中をさまようだろう
溶け出した瞳孔の流れを遮る二本の足の前で
 長い尾の途中に鳥の足跡が芽生えるだろう

犬の胃袋に包まれて街の夜は増殖を始める
磨かれた雲の表面に映し出された傷口は
 黒い蟻たちの行列に縫い合わされて消えた

針金の中心を真っ二つに裂きながら
 僕の指は青い唇を探すだろう
港に一隻の客船が沈んでいるように
 葉の裏側に刺された注射器からは赤ん坊の鳴く声が止まない

雫よりも硬い季節が降り始める
穴のあいた手紙の中を痩せた心臓が駆けていった
白い毛皮の上で眠る蚤たちの甲皮の隙間に
 君は新鮮な唾液を供給し続けている

夕闇の存在は蔦を纏っただけの骸骨に過ぎない
橙色の肺が壁に張り付いているのを見て
 大気は震えあがることだろう
それに耳を澄ますと
 空には欠けた左胸が浮かんでいた

文学極道

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