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作品 - 20150827_332_8266p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


一人で過ごす

  Migikata

生い茂る雑木の梢を眺めては
あなたから託されたノートの何処だったか
「ばらばら」
と書かれたのを読んだ。
「気づけば結局、総てがばらばらだ」

数週間前のことだった。

確か、雨が降り始めるところで
ベランダに張り出す廂が
雨粒に叩かれ小さく
次第に大きく、頭上に響くほどに
鳴る。
そんな朝に読んだ。

雨の匂い。
考えの重心が
多少その朝の有様に偏っていた。
だからかどうか、
鳥や獣や虫の
排泄物と死骸がとろけて
記憶に染みこみ
土の匂いを濃くし厚くし、
とめどない妄想の襞の奥まで
純白の蛆虫が食い込んでいる。
噛まれた痛みが、
ある。

そのノート、
三日ほどあと林道で取り落としたノートは
雨水に浸ったまま乾いてしまい、
ページがくっついてもう剥がせない。

そうして、書かれたことの一切は
脳を浮かべる粘液にまみれ
奥のところですっかり腐り始めている、
今、家から離れた渓谷に来ている。
この谷底は気持ちよく晴れ
生き物はみな上機嫌で生きているのに。
ここも地上の円盤の
端の端であって
ノートに書かれていたとおり
ここにあるものもみんな
ばらばら
脈絡がない。

高空を風が渡っていくらしい。
雲は綿を裂くように流れる。これも白い。
特に音というべき音はない。聞いていない。
無声のカンツォーネ、
それが地上を圧している。

蛆虫から孵化した小さな蠅が
頭蓋骨の内側の狭い場所を飛び回り
それが夥しい数である。
僕は蠅の王となり
蠅の群れように考え
蠅の群れのように
自ら問い掛けを続ける。
だがそれは、蠅たちの羽音に過ぎない。

僕はどこにいて
あなたは誰で
かつて僕やあなたや他の人たちは
何をしたのか。
したことに何の意味があったのか。

揺らぐ。

問いが揺らぐ、答えも揺らぐ。
ばらばらなものが、
統一を装いながら揺らぐ。
揺らぐことがわからず揺らぐ。

僕もコクヨのノートにパイロットの万年筆で書こう。
頭上のスカイブルー
ブルーブラックのインク
「ばらばらなことは確かだが、自覚できない。
蠅の王はどこまでも惨めである」

しかし、書くべきノートは何処にもない

ない。

文学極道

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