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作品 - 20150821_252_8263p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


詩編「記号図鑑」

  ねむのき

   [ae]

きのう、隣のクラスの担任の
英語のヤマシタ先生が死んだ

ヤマシタ先生はおっとりした人で
授業はいつもつまらなくて
眠かったけど
めったに怒らない 
やさしい先生だった

先生の自宅のアパートからは
発音記号で書かれた遺書が
見つかったらしい

その日から 
隣のクラスのみんなは
〈apple〉を〈アップル〉と 
発音しなくなった

  

    [🎼]

今日は
誰でも上手にピアノが弾けるようになる
という仕組みの
ト音記号の形をした月がのぼる
年に一度だけの日で

夜の公園に集まった人たちが
なかよくお酒を飲みながら
順番に並んで
思い思いの曲を演奏している



    [±]

わたしの兄は
大学院で数学を専攻していて
それなのに文学オタクで
大学に詩の合評会のサークルを立ち上げるほど
詩が大好きで
自分は「日本で一番数学に強い詩人」だと
わりと本気で思ってる
ちょっと変わった人です

日々の生活の出来事を
微分したり
以前付き合ってた彼女にフラれた ほろ苦い思い出を
統計的に処理したり

兄の書く詩はとても数学的で
日常のことをテーマにしたものばかりなのに
超難解で
毎日ひっそり
詩のサイトに投稿もしてるみたいですが
誰にも理解されずに
いつもスルーされているようです

でも 
わたしが中学1年生の時
「マイナスにマイナスをかけるとプラスになる」
というのがどうしても分からなくて
とても頭を悩ませていことがあって
そのことを
兄に質問してみたら

 良いことがたくさん増えたら、すごく嬉しい
 でも
 嫌なことがたくさん増えたら、すごく悲しいし
 良いことがたくさん減っても、すごく悲しい

 だけどもし
 悲しいことがたくさん減ったら
 それはすごく嬉しいことでしょ

 それといっしょだよ

って教えてくれて
なんだか全然分らなかったのがウソみたいに
不思議と納得できたのです

だからたぶんわたしの兄は
本当に日本で一番の
数学詩人なのかもしれないと
ちょっと思っています



    [φ]

今朝 学校へ行く途中
つるつるした記号のようなものが
道路のうえに落ちているのを見つけた

見たことのない記号だったから
こっそり拾って 
学校に持っていった

図書室の記号図鑑で調べてみると
〈これは記号ではない〉
という意味を表す
いまではあまり使われていない
珍しい記号だった

文学極道

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