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作品 - 20150815_160_8256p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ヘンドリックと青い空

  尾田和彦



湿気を含み
じりじりと指先に迫る煙草の火のような不快な暑さが
ぼくたちのクーラーのぶっ壊れた車内を
熱によって歪ませていた

「この夏の異常な暑さ」

ラジオの気象予報が繰り返し注意を呼び掛けていた

高速道路は帰省者たちの車で埋まり
ちょっと近所に遊びに行くだけの
ぼくらの時間まで奪っていく
その暴力的な非論理によって

都市的な風景を
ひそやかな不安によって
重層的かつ無根拠な宙吊り状態に置き
そしてそれによってぼくらは車内から真っ青な空と


どこまでも膨らんでいく入道雲を見上げながら
昼食までの憂鬱な時間を過ごさなければいけなかったのだ

この種のトランジット状態を密室で味わう羽目になるのが
ぼくたちが未だ構造さえ描くことのできない都市の姿なのだ

明美とぼくとヘンドリックは
高速を降り下道を走った
ヘンドリックは憤慨して云った
これじゃ2時まで昼飯にありつけないな
お前が高速に乗るって言い出したからいけないんだろ?
バカ言え!俺のせいか?
なんでこんなバカみたいに車ばっかなんだよ!
お盆だからよ
明美が優しく云った
お盆だからな

盆だからなんだって云うんだよ!
ぼくらはあまりにもうるさくヘンドリックが騒ぎ立てるので
近くのセブンイレブンでコーヒーでも飲むことにしたのだ
セブンイレブンの駐車場もすでに一杯だった
ぼくらは2メートルほどあるブロック塀ぎりぎりの端っこに車をとめ
ヘンドリックにアイスコーヒーを買ってやる約束をして
明美とぼくは店に向かった
車の窓
あけてきた?
ああ
全部全開にしてきたよ
じゃなきゃ
ヘンドリック
ぼくらが帰ってくるころには干からびて死んでるよ
ホントね
おバカなクマさんだから

明美はぼくをそそのかしてきた
ねえ
そろそろヘンドリックを手放さない?
手放すってどういうことさ
動物園とか?
ほら・・
ほらって
彼にふさわしい場所
きっとあると思うのよ

最初は冷たい女だと
ぼくは明美を疑いかけていたが
彼女は真剣にヘンドリックのことを
考えていたのだ
そうだ
ヘンドリックを甘やかし
彼をちゃんと自立させてやれないのは
ぼくのやり方が間違ってるからじゃないか?
ぼくらはポテトとピーナッツとコーヒーを買い
車に戻った
ヘンドリックは助手席を倒し
ダッシュボードに足をかけ
グーグーとイビキをかいて寝ていた
呆れた
よくこんな暑いところで寝れるもんよね
どこでも寝れるのがこいつの唯一の特技だからね

どこまでもモクモクと膨らんでいく入道雲
太陽と青い空
ぼくは明美に云った
目的地
変更するか?
どこに?

さあね
動物園とか

文学極道

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