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作品 - 20150806_871_8237p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ロードムービー、ロックンロール、アメリカ、天使

  中田満帆

 *ロードムービー

 かれらはたがいになにものかを識らない
 むしろ識るためにともに歩き、または走る必要があるということだろう
 わたしがおもうに自動車や道は、自動車や道のように見えるだけの装置であって、
 それらそのものではない道標なのだ
 映画はそこに介入するものの、かれらの関係を解釈しようとはしない
 それはしてはならないことなのだ
 だからこそ映画は映画でいられる
 映画は決してかれらに介入しはしない
 やがてかれらがわかれようが──かれらはわかれることになっている──映画はなにもしない
 それが映画を映画たらしめてるのだ
 では観客であるわたしはいったいなにをしてるのだ?
 それはおそらくかれらを追うことだ
 わたしはかれらなしではいられない
 かれらこそわたしを奮い立たせてくれる存在だから
 遠く、遠くのほうまで追いかける
 やがてすべてが暗転してなんにも見えなくなるまでロードムービーはつづく

 
 *ロックンロール

 チャック・ベリーを識ったのはマーティ・マクフライを通してだった
 深海のダンスパーティーでかれはギターをかき鳴らした
 タッピングをした、背中で弾いた、アンプからジャンプした
 そして舞台のうえをもだえるように、蛇となって動いた
 わたしはまだ二歳だった
 それ以来わたしはロックを飽きもせず聴いている
 十四歳のころ、わたしは幼馴染みにいわれた
 おまえがロックを聴くなんてヘンだだって
 だけれどロックンロールは誕生以来、
 あまねくひとびとに契機を与えつづけてる
 わたしも与えられたひとりなのだ
 だからきょうもロックとともに
 おもい描いてる
 教科書に立っていた同級生の女の子たちのことや、
 広告のなかの素敵な女の子たちのこと、
 音楽雑誌の批評文のあの皮肉めいた文明を、
 すれ違いざまにぶつかってきたあらゆるおかしなできごとなんかをだ
 やがてすべては物語にかわってしまうから、
 わたしは作品以前のひとびとやものたちをできるだけ抱きしめたい
 抱きしめたいのだ
 放したくはないのだ
 ロックンロール、
 きょうもありがとう
 そしてあしたこそさようなら、だ
 「ロックンロールはひとを苦悩から解放させない。苦悩を抱え込んだまま踊らせる」
 これはピートの科白、でもザ・フーには興味がない
 わたしは「おまえはおともだちじゃねえんだよ」といったときの宮本が好きだ
 「願いによって神に祈ることなどできるものか」と叫んだジムが好きだ
 ロックンロール、それは神が遣わした、
 男のための苦汁である

 *アメリカ

 幼年期から棲むわたしの幻影のアメリカ大陸
 なまえのない通り
 あるいはその場かぎりのなまえを与えられた通りや町やビルディング、アパートメント
 プードルスプリングは存在する
 ベイ・シティも存在してる
 チャンドラーのハリウッドから
 グーディスのフィラデルフィアへ
 ブコウスキーは「涅槃」というなまえの詩でこう書いていた
  目的を
  すっかり見失っては
  あまりチャンスは
  望めない、
  かれは、バスに乗って
  ノースカロライナ州をぬけ
  どこかへ行く途中の
  若い男だった(訳=原成吉/「ユリイカ」95年5月)
 いっぽうトラビスは、テキサス州パリスで仆れ、
 息子ハンターともにヒューストンへ妻ジェーンを追いかける
 それは一九八四年のピープ・ショウだ
 男も女もやがて穢れていく子供たちもみんな悪夢をアメリカン・ドリームへと欺こうとして詩を書く、小説を書く、絵を描く、マスを掻く
 いちど失った友愛は決して二度とは帰って来ないというのに
 ビッグ・ガバメントの垂れ流すまやかしにやられて
 どこにも行き場を見失ってしまうのだ
 好機はそのものにはちがいないけれど、まるで紙切れのようで、
 いちど握ったらもう使いものにはなりはしないのだ
 さてサンアントニオを振り切ったトラビスはハンターに伝える
 「じぶんが触れようとするものが怖い」と
 そうしてジェーンとハンターを結びつけて消失する
 いっぽう一九六六年ニューヨーク州バッファッロー生まれのビリーは、
 誘拐した女の子レイラとモーテルで九八年に結ばれた
 わたしはそんなアメリカが愛おしくてたまらない
 「戦争に勝った国の映画なんか観ない」と清順はいったけれど
 わたしにはどうしても必要な毒物がアメリカなのだ
 一九八四年ジャームッシュは"Stranger than paradise"を完成させ、
 アメリカのぶ厚い皮をひったっくってしまった
 あの三人、かれらはニューヨークの片隅からフロリダへむかい、
 トム・ウェイツは臆病者の実験音楽、
 リッキー・リーが"マガジン"をだし、
 西脇市民病院でこのわたしが七月三日に産まれた
 でもそんなことはどうだっていい
 ラブホテルの看板"TOM BOY"の燦めきを感じながら、
 わたしはアメリカを記述している
 東海岸よりも西海岸が好きだ
 ブローティガンは、
 銃でみずからの頭をふっ飛ばした
 ああ時が流れ、
 草の葉が夏色に染まる
 子供のころずっと夢だった、
 デロリアンにまだわたしは乗ったことがない
 もし手に入れたらば、
 さてどの時代にいくべきだろうか?
 
 *天使

 きみの電話を教えて欲しい
 いつでも声が聞えるようにだ
 きみにはいつも世話になっているから
 どうしたってお返しがしたいのだ
 きみにとってなにが喜びだろうかしら
 わたしはわたしでなかったころの記憶を憶えてる
 わたしは木の畝にうずくまる哺乳動物で、
 麓のホテルから漏れる灯りをいつも物欲しそうに眺めていたのだ
 これはいつかきみが教えてくれたこと
 まだ憶えているだろうかしら
 これまでに何度も病院の寝台のわきできみと一緒に過ごしてきた
 二十九歳の六月がとびきり印象深くおもいだせる
 眠れないで朝を迎えたとき、
 突然温かいものがわたしを包んだのだ
 おかしな気分だったけれど気持ちがよかった
 胸のうえを大きな手が撫でてるような触りだった
 それはたしかにきみの羽の感触だった
 わたしはきみに気づいた
 そして太陽を見た
 永遠そのものが唇ちをあけて笑ってる
 いつかまたふたたび会おう
 今度は病院のそとで
 わたしにとっての疫病神であるアルコールをやりながら、
 犬のラベルのシェリル酒をやりながら、
 今度はきみの告白が聴きたい
 産まれたばかりのような、
 物語でも
 小説なんかでも
 ない、
 作品以前の作品を
 一緒になって回転木馬にゆすぶられながら、
 さ、  
 どうか、
 叶いますように、
 さ、

文学極道

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