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作品 - 20150727_560_8212p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜と星

  ペスト

水の上を渡る星々の
 一生の間に産んだ後悔の数
 口から吐き出された白い指紋
やがて空は明けゆき一人の影が姿を現す

土の中で音が舞う
AとGから映画館の割れる音がする
ガラスの尾をもつクジャクを見た
草の鋭い葉の先で幼い蝶はその一生を振り返る

工業地帯の涙、つまりは赤銅色の雨の正体は
 哺乳瓶の底に沈澱した溶け出した母親の微かな残り
 口から零した白く流れる甘い息
やがて雲は流れゆき一人の心臓が差し出される

森の中では月の見せる幻だけが僕の手の中で震えていた
純粋で汚れを知らない悪魔の子
地中に流れる熱い血潮は
 次第に黒く錆びていった

氷と話した
 今から15分で水の中へ戻ることにしよう
人の話す言葉は僕にはわからないから
 この温度だけを伝えておくれ

闇を掘り返した
 そこでは白骨化した遺伝子が幼い乳房の上を這いずりまわっていた
夜だというのになんと明るいことか
 白い花の中には蝶の羽が浮かんでいる

遠くの星から声が聞こえる
 ひとつの季節の中に発火した電流の叫び声を注ぐのだ
犬の前足から国際司法裁判所を経由して
 私の耳に長い舌が差し込まれた

排水溝に唇をあてがって大きく息を吸うこと
 次にその細い歯の裏に棲みついた蛙を大きな息で膨らませること
 決して空の色は確認しないこと
生まれて間もない鳥の眼に生えた鱗のように柔らかな朝を迎え入れよう

それでもまだ足りないのだ
手のひらにできた湿疹の数が警察官の仕事の数を増やしていく
拳銃よりも重い視線に貫かれて
 道ゆく風船の群れは地上に倒れた

赤い窓ガラスの上を白い鳥は平行に渡っていく
 その途中で卵を産むが
  そちらの方は重力に従って宇宙の組織の中へと分解されていく
冷たい空気が凍らない理由は舌を抜かれた星々だけが知っていた

僕の手が公転軌道上をかき回しているころ
 すっかり血の抜けた脳が弾みよく僕の横を転がっていった
追いかける足をもたない鳥もいたが
 追いかける足をもつ鳥もいた

ガラス片は星をさまよう
 永久に忘れられることのない静寂の中で
一人の人間は豊かな祈りに対して
 その節くれだった手を捧げるのだった

グラスには黒い心臓が注がれた
 それには誰も手を付けない
 それは飲むためにはないのだから
 ではいったい何のために

鳥の羽ばたく理由は
 蝋燭の火の中に記されていた
しかし教会の鐘の音は
 海の底で眠る鳥たちを呼び覚ましはしなかった

石と水が互いに呼び合い、葉の上で交尾をすると
 それを見届けた蟻が慌てて春の訪れを告げた
黄色い血液の中で未だに太陽を思う人間はいまい
 とはいえ森は燃え上がるのだ

吐き出された夜を飲み込め
 真実が風の吹く方へと流れたならば
  透明な眼をした星々のことを思い出すのだ
砂が息づく水たちのように沈黙は虫たちの羽の裏で眠っている

夜明けは未だに噴水の中を循環して回っていた
湾曲した風の上を蛇の吐き出した鱗粉が渡っていく
海との絶交を果たした魚たちはようやく空のもとへと帰るのだ
めいめいが嵐を呼んだ
鋭く尖った星々が最後の歌をうたっている

木の中は安全か?
コウモリの笑い声が聞こえるか?
地を這う女たちの悲鳴は今日と明日の間に一瞬の温もりを見出せるのか?
羽のない空は彼らの声を伝ってどこまで逃げていこうというのか?

若い葉の上で仰向けに寝転がる蝶を見て
 この空は涙を流すのか?

鋭く尖った星々が
 教会の鐘の音のように獰猛な眼をして走っていく
逃げ遅れた水たちは氷のように葉を広げ
 その口元に赤い果実を実らせた

闇だけが僕のちいさな手のひらで震えている
 深い森の奥で誰のためともなく存在する赤い噴水の正体を
  透明な眼をした星々はその風にのせて
   溶け出した蝋燭の根元へと慎重に運ぶのだ

文学極道

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