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作品 - 20150710_289_8185p

  • [優]   - ペスト  (2015-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  ペスト

腐敗した光の海を何千羽もの鳥が渡っていく
森はやがて溶け出して、染み込んだ地下に深く眠る
吼えるような風が耳の奥で膨らんで、弾力のある青い音色を吐き出してゆく
真っ白な樹液は私の腿をつたって流れ、湖の上には丸い月が広がってゆく
電気は暗い溝の内をのたうちまわって進みながら、蒼白い閃光を宙に浮かべる

墓の下で夜を呼ぶ声

眠りと眠りの間に挟まれた右手を抱きかかえながら街路を駆ける母親の影を、銀塩に浸された呼吸の中へ焼き付けた
赤く光る鳥の眼が下水道の奥で氾濫している
花の匂いを嗅ぎにきた少女はふくらはぎに噛み付いた野犬を引きずっている
雲に隠れる隙を見計らって月は静寂と熱い口付けを交わしている

古本屋の店先に積み上げられた絵本の山の底で、赤い人形の表紙が涙を流したので、黒いインクで書かれた文字を洗い流し、蒸発したおとぎ話が街ゆく人の健康を悪くさせた

感染症で熱にうなされる少女の脇に冷やした魚を挟みながら
彼女の汗を飲みに来る鼠たちをその尾を引っ張って剥がしながら
窓の外で笑いながらこちらを見つめる包丁を持った男の目を手で隠しながら
鳥かごの中で歌をうたう幼い妹の瞳を鳥がつつきながら

星の割れ目に新鮮な血液を流し込んだ
煙の中に散った花弁を拳の中で色が濃くなるまで握りしめた
黒色のうさぎに包帯を巻いて白く染め上げた
聞こえない音の中にかよわく解ける根をゆっくりと張った

自身の重みで震える空を泳ぎながら
沈殿する白血球の死骸の山に
寄生して朝を迎える
錆びついた氷のように
深遠な記憶を飲み込んで膨らんだ
傷のある左眼をもつ
羽のない鯨

文学極道

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