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作品 - 20150601_371_8100p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


いっそスモークチーズになりたい

  ねむのき

(※)

ああ めんどくさい
どうでもいい

あ 袋いらないです
レシートも結構です

釣り銭を財布にしまうのがめんどうだから 全部募金箱に流し込む 
業務用電子レンジを見つめる 単調な毎日が回転している
テープを巻き戻す不快な金属音が 頭のなかで響く 眩暈がする 
缶コーヒーと煙草をひったくるようにして ぼくはファミマを後にした
高校生らしきバイトの男の子が 弁当を手に困った顔をして店長を呼ぶ

そんなことは もはやどうでもいい
ああ めんどくさい と呟きながら
あてもなく駅前をうろつく 
薄汚れた本屋に入る 
ビジネス本コーナーには どこぞの成金が書き散らかしたであろう 
愚劣なタイトルの自己啓発本が平積みされている
ぼくは小さな手帳を買う
本屋を後にする

公園のベンチに腰掛けて 煙草に火を付ける
辺りを見回す
目に染みるほど青く空が晴れている
子供がひとりでボールを追いかけまわしている
手帳を取り出し ぼくは《宇宙を呪う歌》という詩を書きはじめる
ペンはするすると滑り ページを飛び越える
しばらくして壮大な叙事詩が完成した

「さっきからずっと何を書いてるの?」
子供がそばにやって来て訊ねた
「詩を書いているんだよ」
ぼくは答える
子供が手帳を覗き込む
「そんなにタバコを吸ってたら、スモークチーズになっちゃうよ」
ベンチの下に散らばった吸い殻を指さして 子供が言う
「きみはなかなかの詩人だね」
ぼくは笑う
子供は手を振って 走っていってしまった

全てがめんどうだった
宇宙の全てがどうでもよかった
〈いっそスモークチーズになりたい〉
手帳の新しい頁に ぼくは書き留めた――



風が吹いている
遠くで工事現場の防音シートがなびいて 曇り空に 鉄骨を叩く乾いた音が響く
ライターの火が付かない 僕は風を避けようとして 体をくるくるしている
すると彼と目が合った

「今日も詩を書いているの?」
ニコニコしながら駆け寄ってきて彼は言った
「また会ったね」
僕はベンチの端に座り直す 
すこし間をあけて 彼はぼくの隣にちょこんと座る
僕は手帳を取り出し ページをめくる
「じつは、きみのために新しい詩を書いたんだ」

Dal segno senza fine

文学極道

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