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作品 - 20150408_382_8007p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


春に埋もれて

  山人

時はまろみを増し、水は思い出したように透明になる
神経のひとつまみを
樹皮の隙間からそっと出して外をみつめる木々たち
億千のいとなみの瞼がゆっくりと開けられる
街は人を配り、人の吐息は其処彼処に一時乗り
やがてけたたましく
車が風をともない浚ってゆく

春になると別な世界がやってくるという。
座布団カバーを外して洗濯機へ放り込む
おそるおそるヘルスメーターに乗る
冬の重みや大きくせり出した脳の重さが如実だ
階段を昇り便所を掃除する
塵を分別する
布団をたたみなおして押入れに入れる
掃除機を取り出してまず二階の廊下から
玄関マットまで塵を吸い
目から零れ落ちた脳片まですいとる

終末のあとの残骸をリセットするように、細針の糸通しの孔を、鋭利な、音が、静かにゆきわたる。
鵺の正体とよばれる夏鳥が鳴いている。


20世紀少年のトモダチのように僕は
覆面の中で「まあね」と真似てみる
そして
「まだ、おわらないよね」と
トモダチの断末魔のときの台詞を真似てつぶやいてみる
僕たちは20世紀少年。
いまでもこれからも。

朝霧が立ち
窓を開けてみると だいぶ明るい
とても日が長くなった
トラツグミは未だ鳴いていた

文学極道

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