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作品 - 20150406_222_7998p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ポエム、私を殴れ。

  ヌンチャク

メロスは激怒した。
必ず、かの厚顔無恥の王を
除かなければならぬと決意した。
メロスには現代詩がわからぬ。
メロスは、腐れポエマーである。
ホラを吹き、ポエムを書いて暮して来た。
けれども自意識に対しては、
人一倍に敏感であった。

と、ここまで書いて、
ヌンチャクは思った。

一人の作者だけから全文引用して、
自分の作品とするのは、
たしかアウトだったかな。

そうだそうだ。
引用なんてくだらない。
所詮は借り物の衣装に過ぎない。
太宰マントは脱ぎ捨てろ!
おまえは誰の言葉でもなく、
自らの言葉で、
語らねばならぬ、
おまえの愛を。
おまえの詩を。
夕陽が沈む前に。
走れ、僕のメロス。
ポエろ、僕のメロス。

 ぼくは新しい倫理を樹立するのだ。
 美と叡智とを規準にした新しい倫理を創るのだ。
 美しいもの、怜悧なるものは、すべて正しい。
 醜と愚鈍とは死刑である。
 『もの思う葦/太宰治』

あ、また引用しちゃった。
アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!

  おまえたちは、わしの心に勝ったのだ。
  虚飾を脱ぎ捨てた、
  この裸身のような心で、
  わしも仲間に入れてくれぬか。

  王様!
  改心するの早いって!
  まだセリヌンティウスも呼んでないのに!

王宮に、
メロスの竹馬の友、
セリヌンティウスが呼び出された。
久しぶりの再会であった。
メロスを見るなり彼は言った。

  王様、裸じゃね?

セリヌンティウスはすぐさま刑吏に捕らえられ、
処刑台にくくりつけられた。
ざわめく聴衆に、
彼は必死に訴え続けた。

  ボロは着てても心は錦!
  一糸纏わぬ裸は裸!
  引用してもいいんよう!

 ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
 ぎんぎんぎらぎら 日が沈む
 『夕日/作詞: 葛原しげる』

アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!

夜酔いの宵っ!

  看守長!
  さきほどから部屋の隅で、
  何やらブツブツとあの囚人が、
  様子がおかしいのでありますが、
  大丈夫でありましょうか?

  放っておけ。
  あんなキチガイナイスガイ、
  裁判を待つまでもなく、
  じきに国外追放だ。

公序良俗に反した罪で、
牢に入れられている全裸のメロスに、
緋のマントをかける少女はいない。

 ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
 ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
 『斜陽/太宰治』

 金比羅船々追風に帆かけてシュラシュシュシュ
 『民謡』

 シュリケン、シュリケン
 シュシュシュシュシュ!
 『さっくん忍者参上!/ヌンチャク』

ポエム、私を殴れ。
音高く、私の頬を殴れ。
私は一度だけ、君を疑った。
いや、二度。
嘘、三度。
土台こんなものは詩でないと、
誰に裁く権利があるものか。
とりあえず私を殴れ、
私も殴る、
そうでなければ私には、
君と抱擁する資格さえないのだ。

微笑むポエム、ポポエム。

ヌンチャクは、ひどく赤面した。

文学極道

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