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作品 - 20150217_270_7919p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


キャバクラの女

  尾田和彦(←織田)






12月の暮れに
俺はミナミの立ち飲み屋で小便みたいなビールを飲んでいた
もしそれが確実だというならば
金曜日の夜に
その悲劇が
何もかもを台無しにする筈だ
よいだろうか?
他人も自分と同じような憂鬱な気分に引きずりこみたければ
これだけを憶えておけばよい

開けっ放し便所の壁の落書き
壁紙の剥がれ落ちたリビング
幅木の引きはがされた床板
空き家となって
廃墟と化する住宅地の雑草の中で生まれる野良猫
日本の貧民街で
産声をあげたばかりの赤ん坊が母親に殺される
本当だ

俺は低い声でしゃべり続けた
今年のタイガースの新人がどうだとか
シーバス釣りが趣味の上司の話だとか
事務のあの子は俺のタイプじゃないが嫁にするなら多分良いだろうとか
酒場の時計が4時をさすころ
俺はキャバクラの女を抱いていた

日本橋にあるブレンダというラブホで
干しぶどうのような彼女の乳房を揉んだりしゃぶったり
年増の女の性欲には死の影が常に漂う
まるで井戸の奥深くから
薄くなった水を
滑車でタライに汲み上げるように俺たちは急き立てられるように貪った
おそらく
互いの体の中からは何も出てきやしないし奪えない
最早快楽すらもない

人間の社会から
堂々と正義を奪ったものたちがいる
君と俺とが
同じ時代に居並んで
ベットサイドのテーブルに腰を掛け
気怠く女がブラのホックを留めながら言った
きっと私たちも
もっとずっと前に滅んでもおかしくはなかったのよ
最後の希望を失った人間も
セックスとかするのかしら?

文学極道

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