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選出作品

作品 - 20150202_891_7883p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


第2回・京都詩人会・ワークショップ 共同作品

  田中宏輔

第2回・京都詩人会・ワークショップ 共同作品


参加者:内野里美・大谷良太・田中宏輔・森 悠紀


時間:2015年1月11日14時〜20時
場所:四条烏丸上がる東側にある喫茶『ベローチェ』の2階


詩作方法の概要とその結果

(1) 1人につき 名詞5個 動詞5個 提出
(2) 計 名詞20個 動詞20個から、それぞれ、5個以上を用いて詩をつくる。これ以外の言葉を用いてもよい。同じ言葉を何度用いてもよい。動詞は時制を変えてもよいし、語尾を変えてもよいし、複合動詞にしてもよい。
(3) まず、各自、うえの規則のもとで詩をつくる。つぎに、(2)のなかから自分が選んで使用した名詞と動詞を順番に抜き書きして、その順番を書いた紙を他のメンバーに渡す。全員、他のメンバーの作品を読まないで、その渡された紙に書かれた順番にしたがって、他のメンバーが使用した名詞と動詞を用いて作品をつくる。
(4) 参加者が4人であったので、さいしょの自作1作+他のメンバーの使用した言葉の順番でつくった詩作品3作の計4作が、1人の詩人によって作成された詩となった。よって、今回のワークショップで制作された詩作品は、ぜんぶで16作品となった。


I 各人が提出した 名詞5個 動詞5個

内野里美 名詞5個:蜜柑 酒粕 日めくりカレンダー(暦) 手技 坐禅
     動詞5個:効かす こぼれる 淹れる 慈しむ つまびく
大谷良太 名詞5個:煙草 川 魚 金銭 トレイ
     動詞5個:置く 投げる 捨てる 配置する 擦(こす)る
田中宏輔 名詞5個:証明 疑問 労働 居酒屋 人間
     動詞5個:動かない 戻る ずれる 考える つむる
森 悠紀  名詞5個:トーチカ 群れ 奥 水道 筋
     動詞5個:し損なう うろつく 組みつく 眇める 押し戻す


II 各人が使用した 名詞と動詞の順番
 

内野里美:奥 つまびく 群れ こぼれる トレイ うろつく 金銭 擦る 人間 動かない 疑問 ずれる 川 証明 置く
大谷良太:人間 手技 慈(いつく)しむ 擦(こす)る 筋 つまびく 金銭 動かない 奥 組みつく
田中宏輔:居酒屋 奥 配置する トーチカ 群れ 坐禅 し損なう 魚 こぼれる 疑問 押し戻す 動かない 金銭 人間 考える
森 悠紀 :人間 証明 し損なう 煙草 投げる 捨てる 蜜柑 手技 筋 眇める 労働 動かない 人間 うろつく 暦 配置 押し戻す ずれる こぼれる 慈しむ 居酒屋 トレイ 置く 人間


作品


内野里美 オリジナル作品

奥から
つまびかれた群れたちがこぼれ
トレイにうろつくと
金銭を擦る人間の
ばらす当て所なさに
動かない疑問がずれて
川の証明を
置く


内野里美順 大谷良太作品

奥をつまびいて群れがこぼれ、
トレイのまわりをうろつく
金銭を擦る人間
動かないまま疑問がずれ、
川は証明を置く


内野里美順 田中宏輔作品

直線状の猿たちが脳奥でつまびかれる。
群れからこぼれ落ちた点状の猿たちをトレイに拾い集める。
うろつきまわる点状の猿たち。
金銭を擦りつづける人間の猿たち。
動きまくる円のなかで、人間は動かない半径となる。
点状の猿たちから疑問が呈される。
ずれゆく川の存在は、その証明の在り処をどこに置くのか、と。


内野里美順 森 悠紀作品

奥から
つまびかれるリュートが
人の群れの上にこぼれている
トレイを持ったままうろつき
繰り返される金銭のやり取りに
擦れた指先をした
ウェイトレスのパッセージが
夢見るように重なるのを
ざわめく人間たちの隙間にちらと見る
動かない月がある
中空に引っかかったような疑問が
ずれてゆく川の流れの
永いスパンで氷解するように
ひとしきり掻き回したグラスが
剃刀の証明として
ひとつの机の上に置かれる


大谷良太 オリジナル作品

人間の手技で
慈しみ擦る
筋をつまびく…
金銭で動かないなら
奥に組みつく


大谷良太順 内野里美作品

人間の手を抜いた手技を慈しむべく
擦る鉄筋コンクリートにつまびかれる金銭の倍音に
奉る絵馬から落ちた子どもの
喉奥に組みつく


大谷良太順 田中宏輔作品

人間は手技を慈しむ。
刻む、彫る、擦る、組む。
筋彫りの刺青。
中国人青年の腰を抱く。
ラブホでつまびかれるBGMの琴の音。
正月だ。
金銭のことはどうでもよい。
背中から抱きしめたまま動かない。
奥にあたる。
組みついた二つの背中。
人間は手技を慈しむ。


大谷良太順 森 悠紀作品


よく人間の手技を慈しむ
ラクダは今宵一本のマッチを擦り
しみじみと月を見ている
ふむ、と読み筋に目を凝らし
たわむれにつまびく口琴は
金銭の埒外にあり
静けさそのものの如くラクダは動かない
やおら冷蔵庫を開け
煙と共にしゃがみ込み
それから急に思いついたように
奥の仕事に向かうため ありものの
食材に果敢に組みつくのである


田中宏輔 オリジナル作品

居酒屋の奥に配置されたトーチカの群れ。
坐禅をし損なった魚たちがこぼれる疑問を押し戻す。
動かない金銭は人間を考える。


田中宏輔順 内野里美作品

立ち寄った居酒屋の奥に配置する小粒の
トーチカの群れなす坐禅にし損ないの魚たちの
こぼれる鱗が肴
疑問がたまらず押し戻す動かなかった金銭に
人間から離れて考えるのは


田中宏輔順 大谷良太作品

居酒屋は奥に配置したトーチカ
群れて坐禅し損なう、魚はこぼれた
疑問を押し戻し、動かない金銭、
人間は考える


田中宏輔順 森 悠紀作品

居酒屋の奥で
つらいぬいぐるみのようになったぼくが
いつの間にか配置されたトーチカの群れから
降り注ぐ鉛弾に撃たれている
それで坐禅をし損ねるぼくの
魂はしかしすでに身体を離れているようで
ぬいぐるみのように丸まるぼくも見えるし
厨房で俎上の魚から笑みがこぼれるのも見える
ここでぼくとは誰か
という疑問がぼくを身体に押し戻す
トレイの上でいつまでも動かない金銭のように横たわる
つらいぬいぐるみのようになったぼくが
人間の笑み方について考えている
丸まってゆきながら考えている


森 悠紀 オリジナル作品

毎日、コンビニの棚を見つめて
人間を証明し損なう
君は煙草を投げ捨て
ふたたび蜜柑のつぶつぶのような
日々の長さをしがんでいる
鶏を捌く手技は
しぼられた首筋を
ひとつひとつ見眇めてゆく労働で
前線に沈む
地図のように動かない人間と
うろつく暦の配置を
押し戻すように測定する
どこかで視線がずれて
手袋からあぶくがこぼれている
それを慈しむように
居酒屋のトレイに置いて
人間は
雨の外に出て行く


森 悠紀順 内野里美作品

こわい人間の証明をし損なう時
煙草の煙と投げ捨てる蜜柑の
その手技から筋トレまで
目を眇めた労働者の手の内で動かない

こわい人間のうろつく辺りで
暦売りが配置されては押し戻されて
旧暦がずれていく
わずかにこぼれた慈しみに
居酒屋の主人はトレイに置いた
  縮んだこわい人間を


森 悠紀順 大谷良太作品

人間は証明し損ない、
煙草を投げ捨てるしかない。
蜜柑と手技、筋を眇め
労働は動かないで
人間をうろつく。暦を配置し、
押し戻し、ずれる。
こぼれ慈しみ、居酒屋にて
やはりトレイを置くは人間…


森 悠紀順 田中宏輔作品

人間だけが証明し損なうことができる。
外で男が煙草を投げ捨てた風景に遭遇する。
目の前で恋人が蜜柑を上手く剝く手技を披露する。
蜜柑の筋までもがきれいに剥がされていく。
画面では目を眇めた労働者たちが建物に立てこもって動かない。
これもまた人間の風景だ。
うろつきまわる暦の上で、日付は配置された場所を押し戻そうとする。
どこにか。
わからない。
しかし、そうして、どうにかずれようとする。
思わずこぼれた日付を慈しむ。
ふと思い出された
居酒屋のトレイに置かれた人間たちの風景。


作品制作後のディスカッション

「川+証明+置く」、「金銭+擦る」、「居酒屋+配置する+トーチカ」、「坐禅+し損なう+魚」、「うろつく+暦」などの言葉の組合せが重なった。いわゆる、類想、よくある言葉の組合せである。(発言:田中宏輔)

特定の単語が近くに並べられてあるとそうなるものと考えられる。(発言:森 悠紀)

ほかから持ち込まれた言葉がモチーフの中心になると、さいしょに提供された言葉が生き生きとし、詩自体が生き生きとしたものになるように感じられた。(発言:田中宏輔)

生き生きとしたイメージ、発想の斬新さが、人を感動させる。(ことが多い。)イメージ、発想の異質なものは、他から持ち込まれる言葉によって齎(もたら)される。(と言うより、「他から持ち込まれる」=「異質」。)(発言:大谷良太)

文学極道

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