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作品 - 20141206_078_7798p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


しゃべるオレンジとウサギの女

  織田和彦





ここに死体を置いていこうと
カンガルーは言った
ウサギの女は死体に毛布を被せ
手を合わせた
何してる
グズグズするな!
カンガルーは中指でレイバンのサングラスを押し上げ
ポケットから煙草を取り出し
忙しなく
ウサギの女を叱責した

サングラスの奥で
目撃者が誰もいないことを確かめると
カンガルーはジープ・チェロキーにウサギの女を押し込み
電気にでも触れたかのように
車を出発させた

  ∞    ∞

てめぇ
気が変になっちったのかよ!
カンガルーの兄はカンガルーの弟を怒鳴った

ダチョウとクマを同時に殺っちまったんて!

カンガルーの兄は小刻みに
少し震えているように見えた
ウサギの女はハイヒールを脱ぎ
ソファーの上に素足を投げ出した

   ∞        ∞

ぼくはカンガルーから用意された
白い漆喰い仕上げの
まだらに剥げた壁の
開きドアの
一番下の丁番が
完全にへしゃげて壊れしまっている
ビス類の散乱した小さな
とても
とても小さな部屋と
簡易式ベットをあてがわれ
しゃべるオレンジという名の男と一緒に押し込まれた

しかししゃべるオレンジとは名ばかりで
彼はとても無口だった
しゃべるオレンジは
スプリングの壊れた
簡易式ベットの脇にある
サイドテーブルで
どこで手に入れてきたか知れない
ラム酒にオレンジを絞り込んで入れていた

彼のポケットに
アーミーナイフがチラリと見えた
ぼくはこの隣人に一抹の不安を感じ
その焦りを紛らわせるために声を掛けた

そのカクテルはなんていうんだい?
できるだけ
陽気で
そしてフレンドリーな調子で

しゃべるオレンジはぼくの方をギトリと睨むばかりで
ラム酒をちびりちびりと舐め始めた
やがてしゃべるオレンジはアルコールが回ってきたのか
ベットにその巨体を横たえると
地鳴りのようなイビキをかき始めた

    ∞   ∞

ぼくはしゃべるオレンジのポケットに手を突っ込み
アーミーナイフを盗むと
部屋をでた
あの調子でイビキをかかれたんじゃ
とても寝つけやしない

ラフ・テフの
巨大な施設は
おそらく著名な建築家の手になるものらしく
様々な
実験的なとも言える空間の配置がされているようだった
しばしば
自分がどこに居るかを見失い
出口に近づいたかと思えば
元の場所に戻った

ぼくはその夜
麻衣子とヘンドリックを探すことを諦め
しゃべるオレンジの
大イビキのきこえる部屋に戻った

暗闇の中に
誰かがいるのが見えた
白くてモコモコとしたものが動く・・

赤い目をした女が
月明かりの中
窓辺の下でぼくの方をじっと見ているのがわかった

  ∞    ∞

君は誰だい?
ウサギの女よ
ここじゃみんなにそう呼ばれてるわ

しゃべるオレンジがもんどりを打つような
寝返りをする

しゃべるオレンジの仲間か?
馬鹿ね
カンガルーのこれか?
ぼくは小指を立てた
馬鹿ね

女と見れば誰かの愛人
馬鹿ね
あたしはウサギの女
あなたは確か・・
クマの人とここへ来たのね
ヘンドリックのことかい?
ヘンドリックはどこさ?
麻衣子は!?

いっぺんに質問しないでちょうだい
せっかちな人ね
ウサギの女はまるで遊郭の花魁のように
スプリングのハジけたベットの上で
艶っぽく足を組み替えた

あたし
クマの人とここへ来た人
初めて見たの
だからあなたに興味が沸くの
だけど言っておくわ
クマの人はカンガルーの弟が拳銃で撃ったわ
あなたの知り合いかどうかはわからないけど
ダチョウと一緒のところを
ラフ・テフの砂漠で撃ち殺したの

あれはラフ・テフで行われた最初の殺人よ

あたしってばさ
全部見ちゃったのよ
そういうと
ウサギの女はさめざめと泣き出した
ウサギの女の目は
みるみるうちに異様なまで赤みを帯び
ぼくはしゃべるオレンジの大きな後頭部を
ただじっと見つめている他なかった

文学極道

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