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作品 - 20141112_672_7745p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


男と冬

  山人


煙突の突き出た丸太で作られた小屋。
男は荒砥、中砥、仕上げ砥をそれぞれ一枚抜きの板におき、刃物を研ぎ始めた。
小屋の中には丸いストーブがごうごうと燃えている。
小屋の一角には一昨日捕らえた鹿が横たわる。
男は外の雪を目で追い、ほんの少し窓を開ける。
むせるように風雪が窓を打ち、男の喉に入った。
山は昨日から荒れ、本格的な冬が来たのだ。

男の愛用しているマグカップに、琥珀色のウイスキーが注がれ、乳白色のランプが灯された。
刃物を研ぎ始める男、入念に丹念に、荒砥から中砥と研ぎ、ランプに刃先を照らし見つめている。
刃を爪に押し当て、スッと刃先を動かすと爪の表皮が刃に食い込んでいく。
刃が着氷したのだ。
喜びを得たい、切りたいと疼いていた。
鹿をビニールシートの上に乗せ、ナイフをぶすりと入れる。
左右に切り開かれ、筋、関節、などを知り尽くした男のナイフは妖艶に赤く光り、肉にのめり込んでいく。

解体は一人では未だ終わらない。
乾燥や塩漬けであと数日は加工する必要がある。
背骨に沿った肉を切り取り、塩を塗る。
鉄板に鹿の油を塗りつけて、塩味だけのソテーだ。
血がまだ踊り、そこに在りし日の鹿が弾んでいる、命の味がする。
確かに鹿は躍動し、跳躍していたはずだ。

雪は本降りになり、また長い冬がやってくる。

文学極道

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