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作品 - 20141103_580_7734p

  • [優]   - 島中 充  (2014-11)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  島中 充

雑木林の木々に囲まれた 湿った寂しい坂道を登ると
不意に緑の沼に射すくめられる。
ホテイアオイがゆっくりと揺れ 
ボーボーとウシガエルが鳴いていた。
あの年 
この沼にまるまるふとった川エビがわいた。
子供たちは網ですくい取り 
村人たちは おいしいおいしいと食べた。
そしてゆっくりと緑の底から 
おんなの死体が浮き上がってきた。
髪の毛や顔にびっしり川エビが群がった
おんなの裸体。

君が殺したのだ 君が
たとえ 僕が手淫を教えたとしても
たとえ 僕が雑誌を貸したとしても
たとえ 僕たちが
解剖皿の蛙の白い腹を見ながら
おんなの死体がほしいと話し合った事があったにしても
殺したおんなの 陰部を鉛筆で開き
鉛の薄黒い痕跡を残したのは 君だ
君が殺したのだ

ハイライトに火をつけ 夕方の 水面を見ている
昔のようにうすくさざ波が立ち
ホテイアオイの中からウシガエルが鳴いている
二十六年前  君がおこしたあやまちを思い出し
帰郷した僕は またこの水面を見ている

やにわにギャーと悲鳴があがり
水しぶきがあがった
1メートルもある巨大なオタマジャクシだった
尻尾を蛇のようにくねらせ 
頭の手足をばたつかせたので
ウシガエルのおしりに 噛みついている蛇だとわかった

僕は 僕たちの思い出を 忘れたい
僕たちがウシガエルだったということを
君が今どうしているのか 僕は知らない
ただ思い出を 蛇の住む沼に 突き落とす

僕には息子がいる 中学三年生になり 
性に目覚める頃 解剖皿で蛙の腹を開き
手淫を覚える年齢になった

そう そのとおり
僕たちの過ちは 中学三年生の時だった
はっきり問えばいいのだ 僕に 
お前が殺したのかと
そうだ 僕が殺したのだ













 

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