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作品 - 20140820_783_7623p

  • [優]  場所 - 中田満帆  (2014-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


場所

  中田満帆

かの女たちへ



   そうして悲しむことをやめ
   ふたたび葉につつまれた片手で
   ぼくは帰っては来ないもののために祈る
   いくつものかげたちはいつもみたいに廊下を過ぎる
   なにをそれほど脅えてたのかはもうわからなくなって
   噛み砕かれた胡桃の実がぼくの咽を通る
   いつだったかおぼえてないけれど
   あなたたちがぼくに笑みをむけてくれたとき
   ぼくはなんだか怖かったんだ
   あの駅ビルや教室のなか
   ぼくを笑ってた
   いつかまたあの笑みをみたいといまだおもってる
   それがどんなにも空虚なことと知りながらも
   ああいっぽんの老木を小脇にたずさえて
   あなたたちの望むほうへと消え去ってしまいたい
   もちろんこうしてるいまでもね
   だからぼくにことばを
   ことばを


暮れの点景


   やがておれのうちがわから零れ落ちる水よ
   おまえはまたしても女の仕方で去っていくもの
   街路樹のならぶ心象を急いで去ってしまうもの
   こんな光景のために幾たびうろたえてきただろうか
   暮れの点景、
   そこに現れた車道が深く胸をえぐる
   つよいまなざしを期待しながら
   またしても惨敗するおれよ、
   水は対向するひとびとを抜けてしまい、
   もはや見えなくなる
   濃くなっていくかげのうちでなにもかもわからなくなる
   やがておれのそとがわから展がる地下道よ
   どこまでも明るいうちを往来がゆるい
   暮れの点景、
   ふたたび惨敗してしまったおれの愁いにいま応えよ


不実


   不実さよ、そのみのりをぼくにおくれよ
   どうか信じて欲しいんだ
   列車に乗り遅れたこのぼくが必ずさきにたどり着くことを
   お呼びでないのはわかってるつもり
   けれど忙しいひとのなかを縫って
   ぼくは死に急いでやる
   これだけがぼくの復讐だ
   遙かさきのシグナルよ、気をつけろ
   遙かさきの駅舎よ、気をつけろ
   必ずや不実の輝きをもってしてそいつらを倒してやるんだ
   不実さよ、
   そのみのりをぼくにおくれよ
   どうか信じて欲しいんだ   
   列車に乗り遅れたこのぼくが必ずさきにたどり着くことを    



ひざかり


   このぼくの敵どもよ、
   どうか安らかなれ、だ
   この季節はだれもが顔をしかめて去っていく
   夕暮れをおもわす足通りでなにもかもが片づいてしまうもの
   あたらしい夜を待ちに待ってどこかへとぼくも消えたい
   けれども辛辣な街灯はぼくを閉じ込めたまんまでどっかうちがわに立ってる
   そうともあれらがぼくにとっての知覚の扉なのさ
   美しいふりをして遠ざかるかのひとよ、
   きみはきみのまんまでいればいい
   もう出会うことのないように
   ぶざまにとどまりつづけるぼくの魂しいよ、
   慈しむ
   このひざかりに咲いた太陽の一輪を差して
   そいつの色が抜けるまでに描写していくんだ、すべてを
   みおぼえのない自叙伝、
   そのうちにぼくはいずれ居場所を見つけるだろうから、だ。


場所


   きょうはヴィム・ヴェンダースの写真集をみて過ごそう
   "Places, strange and quiet"
   静かで見も知らない場所を求めながら、さ
   きみはかつていったね
   ぼくのことがきらいだと
   あのとき一〇歳だったぼくらも三十となった
   ふるえる稜線をたどって厭きなかったあのころ
   ぼくはすでに知ってたんだ
   自身が望まれてその場所にいるのでないことを
   ありがとう、さようなら
   そうしてさらにありがとう、さようなら 
   ぼくの知らないとこできみは大人になった
   きみの知らないとこでぼくはできそないの人間になった
   ありがとう、
   そしてさようなら


怖れる子供


   ぼくの詩神は閉塞と解放を行きつ戻りつ
   太陽のなかに青い種子をみつけようとする
   幼い顔したまんま追いつめにやって来る
   
   きみの詩神はどこでどうしてる?
   ぼくのはハンバーガー・ショップに入り浸って
   角の席でいつもコーヒーを啜ってるやつさ

   きみとはいつも会いたかったけれども
   きみはぼくに会いたくはなかった
   送った詩集が返送されるまで
   ぼくはどれほど待てばいいだろう

   ひとはだれでも詩人であるときがある
   寺山修司はそういってた
   そして詩を棄て損なったものだけが
   詩人として老いるとも
   ぼくは老いてしまったよ 
   すべてを怖れる子供のまんま


空白みたいなもの


   充たされない愛に渇き
   餓えた犬みたいに通りをさまよっていく景色
   すべての風景はぼくにはあまりにも美しすぎたんだ
   左右の確認を怠って死んでいくものたち
   交通はささやかなる墓標
   そのまんなかに立ってまたしてもぼくは夢想する
   気づけないあまたのきみに分散していくかたわらで
   おもいもかけず塵となり、くずとなるんだ
   さあ、おいでぼくのうちなる犬たち
   さあ、おいでぼくのうちなる猫たちよ
   いまや過ぎ去った内的歴史とともに
   うち負かされていく魂しいよ、
   せいぜい永遠にでもなるがいいさ


共鳴


   それはまやかしにちがいない
   どうとでもいいあって勝手に沈んでいくがいいさ
   もうどうでもよくなった
   なにもかもに感じない心が育ってしまい
   なにもかもに手がつかなくなる
   攻撃性を炙りだされ
   足もうごせないときよ
   ペニー・アーケイドのどよもしだけが
   おまえを癒やすだろうよ
   替えの利かないなにものかを求めて
   手を展ばすときだけ
   ぼくはなにものかになれる
   わずか十分間の遊び
   だれかさんはそういったぼくを笑うだろうか 
   果てのないところにたったひとりで立ち向かってるおまえよ  
   ともに感じあうことのない、その両手のなかにいっぱいの花を奪い取れ

文学極道

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