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作品 - 20140704_696_7519p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


血管少女

  るるりら

絵の具の声が、はじめて油絵具を手にした少女には 聞こえた。
「恥じるな ためらうな チューブから色を ひねりだせ」
ぬっちょりとした色 それはまるで スライムのよう
油絵具は、水彩とは 似て非なる生き物だ 
みるみる乾くものだから、おもうままには描けない。
苛立ちのせいで 絵の具を たいして使いもせずケースに収めた。

部屋に立ち込めている松油のような匂いでも布団に入ると
おもいのままの夢をみることができることが少女の特技

あかいあかい動脈の血が 身体にめぐっているのを
心に描きながら瞼を閉じた。
眼前に広がる赤い世界が 耳に聞こえる台風後の川のような振動
どどど 鼓動


少女は心臓に行ってみた。
無垢に鼓動し 身体のすみずみに突き進む
ときには丸くなり ときには やわらかいカラービーンズのように
くぼんだりもしながら
血管の中を 流れてゆく
先に進むほどに蛇行しつつ 外界に焦がれる赤いビーンズの意思は強まり
ながれながれて細部までめぐり やがて
青白く細らむ そのさきで蒸散し 身体の外に出て
そして少女は、元いた場所を かえり観た。

人間のような女が横たわり 静かに寝息を立てている
人間と違うのは 身体の胸のあたりから、 ふとい幹が のびており
腕も足も地に向かって伸び
胸のあたりから延びた幹の先からは
数えきれない枝葉が 方々へと伸びている
身体中で
あかい あかるい エネルギーの一粒一粒らが すみずみで脈打っている

のびるたびに光を受けて そしてまた延び
より先端に 実をつける 
晴れがましい 赤く透明な よりスグリ


あれは夢ではない/わたしは 何者なのか/わたしは 赤い ひとつぶだね
布団から飛び起きて
夢の中でみた自分の姿を ノートに急いで描いた。
緑と紫にキャンパスは彩る。いよいよ先端の実を描こうとしたが
チューブの先が 硬化して 色が出なかった。
   がっつりと大地つかんでいた私の身体の色が出せない
やがて、静脈のように毒々しい色の絵が できあがり、
教室の片隅に飾られた。


絵が
夜な夜な 赤い実を増やしているとは、
まだ だれも きがついていない。

文学極道

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