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作品 - 20140630_595_7507p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


日曜日の談話室

  ヌンチャク

日曜日の談話室は
見舞いに来た家族と
車椅子に乗せられた患者で賑わっていた

その前を通り過ぎ
真っ白い病室に入るなり妻は
寝ているお義母さんの耳元に話しかけた
ぼんやりした目でお義母さんは
差し歯の抜け落ちた上顎が気になるのだろうか
しきりにもごもごと口を動かしていた

しばらくして下の子が暇になり外へ出たいと言うので
私は手をひいて屋上へ連れていき
一緒に道路や家や車を眺めた
取って付けたような真新しい住宅地のすぐ裏に昔からの墓地があって
私が死者ならこんな造成気にいらないな
うるさくて眠れやしないなどと思ったりした

談話室へ戻り窓際に腰をおろす
傍らで息子はすぐに眠ってしまった
病室にも談話室にも
春と間違うような
暖かな陽射しが差し込んでいた
カーテンを閉めていても
うなじが熱く焼かれるのだった

私と同世代くらいの夫婦が
母親らしき人を車椅子に乗せてやってきた
写真やら映像やらを見せて
とめどなく話しかける
これ誰かわかるか
来年は一緒に行こな
今日はあたたかいな
外の景色見よか
ちょっと動かすで
見えるか
痛い?
痛ないな
大丈夫やな

脳外科病棟では
返事をできる人のほうが少ない
私はぼんやりと一方的な親子の会話を聞きながら
詩を書くことの無意味さを思った
壁に貼られた「禁煙」という赤い文字を見ていた

息子を長椅子に寝かせたまま病室へ戻る
どうやらお義母さんも眠ってしまったようだった
ほんま今日はいい天気やもんな
起こしたら悪いからそろそろ行こか
うん

寝ている息子を抱き上げると
欠伸をしながら目を覚ました
パパ抱っこしたろか?
ヒトリデアルクネン
じゃあ靴はき

病院を出るといつもほっとする
それが不謹慎なのかどうか私にはわからない
先の見えない道の途中で
まだ道が確かに伸びているという安堵感
もしかしたらこの調子でという淡い期待
そういうものに寄りすがりながら私たちは
少しずつ少しずつ造成していく
切り崩し平らにならし踏み固めていく
生ぬるい私たちの日々を

そのすぐ隣にある
死をいつか迎え入れる朝のために

今はただ
早く本当の春になって
もう一度皆でお花見がしたい
そんなことを思った

文学極道

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